(23.5.24) ハイビジョン特集 異端の王 ブラックファラオ
(この写真は哲学堂公園のガンジー、記事とは関係はありません)
世の中には私が知らないことがいくらでもあるのだとつくづく思ってしまった。
このたびNHKがハイビジョン特集で放送した「異端の王 ブラックファラオ」がそれである。
古代エジプト3000年の歴史の中で、紀元前8世紀から7世紀にかけての約70年間に渡って、古代エジプトでは黒人のファラオが存在していたと言う。
しかもこのブラックファラオはそれまでのいかなるエジプトのファラオよりエジプト的で、エジプト人が見向きもしなくなったピラミッドの建設や、忘れられた神アメン神殿の再興を行い、エジプトに富と文化をもたらしたのだと言う。
「本当かね、じゃブラックファラオとはどこの誰だい?」思わず身を乗り出した。
私はまったく知らなかったが、ナイル川の上流に古代エジプト文明より約1000年遅れて、BC2000年ごろにクシュ王国が誕生したのだそうだ。
このクシュ王国はアフリカ系黒人の国で、以後2300年の長期にわたってエジプトの上流、現在のスーダンの土地に王国を築いていたと言う。
大国エジプトに隣接する小国クシュと言う関係は、この近くの歴史で言えば中国と朝鮮の関係に近い。
クシュが何もない砂漠のようなところであれば問題がなかったが、ここが古代世界最大の金の産地であることが災いした。
エジプトはBC1500年ごろ金を求めてクシュに戦争を仕掛けたちまちのうちにここを占領し、以後500年間植民地支配を続けたという。
目的は「金」。
今私達が博物館で見るツタンカーメンの黄金のマスクの金もクシュからの献上品なのだそうだ。
しかし歴史とはわからないものだ。500年間の支配の間にクシュ王国はエジプトの最高神アメン信仰の崇拝者になり(朝鮮が中国以上に儒教国家になったのに似てる)、一方エジプトは隣国のリビアとの戦争にあけくれてBC10世紀頃には総崩れになってしまった。
そしてその後300年余り、ナイル川下流域はリビア系エジプト、中流域が伝統的エジプト、そして上流域がクシュ王国と言う中国の三国志のような状態が続いたのだそうだ。
そうした中でこのエジプトを救おうと立ち上がったのがクシュ王国の王ピイだという。ピイは優れたエジプト文明とアメン神の再興のためにまず伝統的エジプト王朝を滅ぼし、次いでリビヤ系エジプト王朝を滅ぼして、ナイル上・中・下流域すべて支配する黒人支配の王朝を築いたのだそうだ。
当時のエジプト人はまったく古代に関心を払わず、ピラミッドも700年前から建造をやめ、神殿も打ち捨てられ、「アメン神て誰」と言うような状況だったと言う。
そこでピイは叫んだ
「我らが神アメンをたたえよ。そしてピラミッドを作ろう」
この番組のテーマは「歴史は異端の王によって動かされる」と言うことだ。
こうした事例は確かに多い。まったく無関係に見えるがNHKが放送している新撰組血風録(司馬遼太郎原作)にも、異端の武士が幕末に最も武士らしく生きようとした姿が描かれていた。
注)番組を見てない人のために言うと、新撰組副長の土方歳三が隊士が士道にそむけば必ず切腹を言い渡して武士として死ぬことを求めていた。しかし実際は土方歳三を含めてほとんどが郷士や百姓や町人出身であり、旗本や藩士のような本当の武士は隊士にいなかった(ただし脱藩浪士はいた)。
このクシュ王国の王はいわば王政復古のような「古代に帰れ運動」をしたのだが、それを本気で行っていたことがすごい。
おかげでエジプト文明は再び輝きをとりもどしたのだが、その富(黄金)を求めて隣国の軍事大国アッシリアがエジプトに攻め込み、瞬く間にブラックファラオの軍隊を殲滅してしまったのだと言う。
ブラックファラオは文化の復興には実に熱心だったが、軍事力の強化を怠り当時の最先端の武器である鉄製の刀剣の数で圧倒的にアッシリアに劣っていたからだと言う。
文化国家はいつも戦争に弱い。エジプトの都は略奪と放火にあい、ブラックファラオが70年間に渡って営々と築いてきたエジプト文明はあえなく崩壊してしまった。
そして第4代ブラックファラオ、タハルカは失意のうちに故国クシュに逃れていったのだと言う。
番組では現在のスーダンの土地にその後も多くのピラミッドが建設されて、なおここがエジプト文明の後継者だったことを示していると説明していた。
この番組は私がまったく知らなかったエジプトやスーダンの歴史を教えてくれたなんとも面白い興味ある番組だ。ブラックファラオもクシュ王国も、そしてスーダンのピラミッドのこともまったく知らなかったが、「異端の王」の話はとても想像力を掻き立て、新撰組を思い出してしまったほどだ。
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