(30.11.20) EU分裂 統合の時代は終わり早くも分裂の時代に入った
ベクトルは完全に分裂に向かっている。EUのことである。EUの通貨統合が実施されたのは1999年のことだったが、あれからほぼ20年、EUは分裂危機の時代を迎えている。
EUの盟主で実質EU の大統領といえるドイツのメルケル首相が度重なる重要な地方選挙(日本でいえば東京都と大阪府の選挙のようなもの)で敗北し、2021年の首相の任期終了をもって政界を引退すると表明した。
さらにEUの実質副大統領ともいえるフランスのマクロン大統領が就任後たった一年余りでダッチロールを始めた。フランスは社会主義圏と思われるほど公務員の力が強いが、その公務員改革の第一弾として手を付けた国鉄改革で国鉄労働者の厳しい抵抗に遭遇している。
国鉄の労働者は日本の旧国鉄の労働者と同様で、親方三色旗の下で給与保障、厚い年金、休業補償、および従業員家族の国鉄利用はタダという既得権を得ていたが、マクロン大統領がこれに手を付けようとしたため上を下への大騒ぎになってしまった。
今年の4月以降五月雨的なストを強行され、自慢のTGVもまともな運航ができなくなってしまった。
さらに財政再建のためのガソリン税の引き上げがオイル価格の上昇と相まって、運輸関連の事業所や労働者を直撃したため全国規模のデモに発展し、マクロン大統領の支持率は急下降してしまった。
「リッター191円なんて日本よりガソリンが高いじゃないか!!! デモだデモだ!!」
発足当初は70%近い支持率があったのに今は25%程度で、さらに低下しそうだ。
もはやEU全体のことより自分の足元のほうが危うくなっている。
イギリスについてはその離脱交渉がなんだかわからなくなってきた。ポイントはイギリスの北アイルランドとアイルランドとの国境を従来通り自由通行にするか、国境管理をするかということだったが、メイ首相は自由通行をEU に認めてもらう代わりに、EU の関税同盟に残るとの妥協案で国内を説得することにした。
しかしこれは強行離脱派からひどく反発を受け、離脱派の閣僚が相次いで辞任している。
「馬鹿を言っちゃ困る。関税同盟に残るなら実質EU に残留するのと同じじゃないか!!」
離脱強硬派からは突き上げられ、一方離脱反対派からは「もう一度国民投票を行え」とこちらも強硬に主張されてメイ首相の立ち位置がなくなりつつある。
「どうしたらいいの、私もわからない」というのがメイ首相の本音だろう。
さらにEU 第3の経済大国であるイタリアがEUに反旗を翻し始めた。EUが示す財政規律を守らず、放漫財政に舵を切ったからだ。
「国内は失業者にあふれていて景気は低迷しているのに緊縮予算なんか組めるか。EUのことなんか知らん。積極予算で不況脱出だ」
EUが何といってもイタリアは放漫財政に転換するという。実はこうした積極予算を組みたいのはスペインもポルトガルも同様で、EUの財政規律は吹っ飛んでしまいそうだ。
このようにEUは今ベクトルが完全に分裂に向かっている。各国が自国中心主義に陥りEU全体のことをだれも考えなくなりつつある。
通貨統合を祝ってからほぼ20年でEUは実質的に分裂し始めた。もはやこのベクトルが再び統合に向かうことはなさそうだ。
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