(2.7.16) 人類衰亡史序説 シリア その1 独裁と難民のはざまで
このところのコロナ騒ぎでしばらく前までヨーロッパ最大のイシューだったシリア難民のことをすっかり忘れていた。
NHKのBS1が「レバノンからのSOS.コロナ禍でおいつめられるシリア難民」というドキュメンターを放映したが、シリア難民が前にもまして悲惨な状況下に置かれていることを知った。
シリア内戦はアラブの春の影響下で2011年から始まった民主化運動だが、アラブのどこの国でも民主化を求める主体が宗教的狂信者が中心になっていく。そうなるとアサド政権の独裁と宗教的狂信者の支配とどちらがよりましなのかわからなくなってしまう。
ヨーロッパや日本でおなじみの民主派といった層がなく、そうした宗教指導者の支配する国は西洋民主主義の視点から言えば、どちらも独裁政権であることに変わりがない。 シリアの人口は内戦が始まる前は2Ⅰ百万人程度だったが、内戦が始まり住む場所も崩壊されると約600万人近いシリア人が国外に脱出した。最も多いのがトルコで約350万人、そしてレバノンにも150万人近い難民がいるという。
今回映像でレバノンの難民キャンプがうつされていたが、モンゴル族が使用するパオのようなテント(ただし四角い)が延々と並んでおり、そこに家族単位で難民生活をしていた。
トルコではなくレバノンに逃れた難民は近くて費用がかからないからここに逃れてきたようで、トルコなどに行く場合は相応の資金が必要なようだった。
しかもレバノンの難民はレバノン政府が認めたものでなく(レバノンは難民条約を承認していない)、押しかけていついてしまったというのが実情だ。
レバノン政府も難民にかかわるのは嫌というのが本音で、ただ見て見ぬふりをしている。 そこに降ってわいたのがコロナ禍で、レバノンでも3月にロックアウトが実施され経済は疲弊し、今まであった難民の仕事が全くと言っていいほどなくなってしまった。
そうした難民の最後の生きる手段は臓器を売ることであり、腎臓一つが10万円から30万円程度で売り買いされていた。またもう一つの手段は売春で、母親が子供の食料を確保するためや、兄に脅されて売春を強要されている少女が映像に映されていた。
救いようもない実情だが、ある家族は兄が臓器密売業者に騙されて誘惑され、臓器を摘出された後はごみために捨てられ、12歳程度の少女が今度は家族(5人程度)のために働くとけなげに奮闘していた。アラブ諸国を見ていると、歴史は民主主義が広まる方向に進むということになっていないことがわかる。現実には宗教的狂信国家のイランや、共産党独裁国家の中国や、共産主義的王朝支配の北朝鮮が営々と生きつづけており、民主主義という思想はある一定の地域にしか広がらないローカル思想でしかない。
アラブの春は宗教弾圧の冬にすぐに変わり、そこに住んでいる人々にとっては、アサド政権の独裁とさして変わらないものであり、内戦で国家が崩壊するよりも「アサドの春」のほうが良かったと普通の人は思うだろう。シリア難民約600万人はアラブの春などと浮かれなければ存在しなかったはずで、人は政治やイデオロギーよりも生活が大事なのは隣の中国を見てもわかる。人は民主主義のために生きるのではなく生活のために生きるというのが実体だ。
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