(2.6.26) 人類衰亡史序説 リビア その1 カダフィの後はタダ混乱
リビア情勢といっても一般の日本人にとって遠い異国の地の出来事であり、アラブの春の後どうなったかさっぱりのはずだ。しかしカタールの放送局アルジャジーラなどを見ていると、毎日のトップニュースはリビア情勢とほぼ決まっていて、他の放送局がコロナと人種問題一色なのに比較すると好対照になっている。
(アルジャジーラは反米、反ロシア、親アラブの放送局でアメリカやロシアした爆撃などは一般人を含めて死傷者を詳細に放送し、一方アラブ側の反撃については一般人の死傷者は伏せられている)。
カダフィ体制が崩壊したのは2012年だったが、カダフィ体制を崩壊に導いたのは英仏のNATO軍とIS武力集団だった。当初はリビアにもアラブの春が来たと浮かれていたが、カダフィ後は実質的にIS(イスラミックステート)が実権を握ったためシリア情勢と同じように混乱を極めはじめた。
このIS掃討に乗り出したのが東部に拠点を置くハフタル将軍率いる部隊で、何とかISの戦闘部隊を追い出し2015年に国連主導で暫定政権ができサラージ氏が首相となって国の安定化を図ることとなった。
しかしこの暫定政権はISを掃討したハフタル氏を排除しようとしたため(暫定政権はサラージ氏とISの合同政権だった)、ハフタル氏は東部に独立国を建設し、19年4月さらに西部トリポリにある暫定政権打倒に立ち上がった。これを第3次リビア内戦というが問題は暫定政権とハフタル将軍の背後に大国が控えて代理戦争の様相を呈してきたことである。
ハフタル将軍は東部のアフリカ最大といわれる石油地帯を抑えており、ここにフランスの石油会社トタルがあるため、フランスはハフタル将軍に秘密裏に武器援助をし、ロシアはまたシリア内戦でIS掃討をしてきた関係でハフタル将軍に民兵2000人規模の軍事支援を行っている。さらに隣接するエジプトがリビアが内戦のままの方が国防上安全なのでハフタル氏を支援している。
一方暫定政権は国連の主導でできたため対外的には正当性があり、ここをトルコが大々的に軍事支援に乗り出した。トルコがなぜという感じがするが、第一次世界大戦前まではここはオスマントルコの領土だったこともあり、オスマントルコの復活を掲げるエルドアン大統領がトルコの対地中海作戦の拠点にしようとの目論見のようだ。当初第3次リビア内戦はフランスの武器提供とロシアの傭兵の支援を受けたハフタル将軍が優位に立っていたが、本年に入りトルコが大々的に暫定政権の軍事支援に乗り出したため形勢は一挙に暫定政権側が有利に運んでいる。
現状は暫定政権優位の状況下で、それぞれのバックにいるトルコとロシアが停戦協定を探っている。 かつてアラブの春と浮かれていたころはすぐに民主政権ができるものと思っていたが、実際はISがいわゆる民主政権の中心に居座り、リビアに関していえばカダフィ大佐のリビアより宗教専制的な国家になってしまった。
カダフィ大佐は「俺がいるからリビアは収まっているんだ」と言っていたがまさにその通りで、カダフィの後はISでは何のためにカダフィ大佐を排除したのかわからない。
シリアはアサド大統領がロシアの支援で何とか踏みとどまり、北部のIS 支配地を奪還しているが、アラブの春の教訓は独裁政権を打倒すると宗教専制政治がアラブを席巻するということで、民主化などと言って浮かれないほうが賢明といったところだろう。
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