(2.6.1) 人類衰亡史序説 EU その2 最後の同意となるか?
EU委員会のフォンデアライエン委員長が提案している欧州経済復興計画書がEUで同意を得られるか否かのせめぎあいをしている。
計画案は欧州委員会が7500億ユーロ(約89兆円)の資金を市場から欧州共同債で調達し、そのうち5000億ユーロを補助金とし残りを融資とするもので、補助金や融資の対象国はイタリアやスペインといったコロナでの経済損失が大きい国に配分されるという。
この委員長の提案にフランス、ドイツ、イタリア、スペインはもろ手を挙げて賛成したが、一方オランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークといった倹約4か国が大反対をしている。提案は加盟国のすべての賛成を得て初めて実施されるから、一国でも反対があれば承認されない。
倹約4か国が反対しているのは、補助金という返済が不要の資金をイタリア、スペインに渡すのは、財政規律という意味から許せないということだ。EUの一枚看板は財政規律だったからこの主張は正論だ。
ドイツは当初、委員会の提案に反対だったのは、欧州共同債を発行して資金調達をするとドイツが一国で国債を発行するよりもコストが高くなるからで、ドイツはマイナス金利でいつでも市場から資金を調達できる。
「しかしここは欧州復興のために折れよう」メルケル首相が決断した。
イタリアとスペインは補助金というただの資金を贈与されるのだから反対する理由は全くなく、フランスも贈与を受ける立場だからこちらも大賛成だ。一方贈与のないドイツは大人の判断で欧州全体のことを考えて妥協している。
「ここでEUを崩壊させるわけにはいかない・・・・・」
しかしオランダやスウェーデンといった国はEUを指導する立場にないから、「やだ、補助金ではEUの基本コンセプトだった財政規律を全く無視しており、到底認められない」と厳重抗議をしている。
この欧州復興計画書が実施に移されるのは21年からだから、今年いっぱいをかけてEU委員会が倹約4か国を説得できるかにかかってきた。
もし説得に失敗し「補助金でなく全額融資」ということになればイタリアやスペインの財政は大幅に悪化するだろうし、反対にこの案が通ることになればオーストリアやオランダの右翼政党が「EUからの離脱こそが国益にかなう」と騒ぎだすだろう。
すでにイギリスは離脱を決定し、それでなくてもEUの結束が緩んでいるところにコロナという思っても見なかった災厄が飛び込み、EUの存立基盤そのものを揺るがしかねない状況だ。
今や世界は国益オンリーとなって、最後に残ったEUの理念などどこかにすっ飛んでしまいそうで、あれほどもてはやされたEUも黄昏が訪れている。
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