シナリオ ハバロフスク

(28.11.8) 病気療養中のため二日に1回の割で過去のシナリオを掲載しています。 「ハバロフスク(第五回 )

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  このシナリオはソ連邦が崩壊した1990年前後を扱ったものです。歴史的なシナリオを描いてみたくて挑戦したものです。(一回からの続き)


〇 校長室(続き)

校長「いや、その、そういわれてもこればかりは明確な基準があるわけではなくて、例えばあなたがサーシャの父親のようにハバロフスク州の第二書記であればお金の問題もないのですが・・・・・・・」
母親「私の父親は大祖国戦争のときスターリングラードの攻防戦で戦死し、祖国より勲章をもらっております。母親はナチスにとらえられウクライナで殺されました。私の夫はアフガンで名誉の戦死をしました。私はノルマを一度たりとも未達成におわったことのない労働英雄です。
同志ブレジネフは年頭の人民に対する論文で、祖国に尽くすものは祖国から報われると言っていたはずです」
校長「いや、いやお母さん。あなたの言うことはよくわかりました。努力してみましょう。とりあえず5000ルーブル用意していただけるでしょうか。それとあなたのところにテンの良い毛皮があればさらに良いのですが。確約はできませんが、まあ、努力してみましょう」

イリーナ「(語り)しかし母のこの努力も、校長の行為も報われなかった。その後母は州の第二書記のサーシャの父親のもとに私の入学の依頼に行ったが、帰ってきたときには母の髪が乱れそして洋服がやぶれていた。母は何にも言わずただひたすら台所で泣き崩れ、そして母はその後二度と労働英雄になろうしなくなった。
わたしは母に何が起こったのかははっきりとはわからなかったが、母の心が崩れるぐらいの悲しみだったことは理解できた。『母さん何があったの。なぜ何も言わないの。母さんもういいのよ、私、特別英語学校には行かない。だから泣かないで、お願い』」

〇 1990年 ハバロフスク空港 5月

アナウンス「新潟発ハバロフスク行きアエロフロート003便がただいま到着いたしました」

 飛行機の騒音、古ぼけた空港の税関。そこに日本人客が殺到している。税関の恐ろしいくらいの時間をかけたチェック。

税関職員「次、出入国カードとパスポートを見せて、申告することはありませんか。ラジカセは持っていませんね」
旅行者「いえ、なにも」
税関職員「では、スーツケースを開けて」

 スーツケースの中を開けてチェックする税関職員。そこに日本からの旅行客山崎次郎(40歳)が現れる。何回もロシア旅行をしているため税関職員とは顔見知りになっている。

税関職員「はい次」
山崎「相変わらず元気だね、アントン」
税関職員「はは、これは山崎さん、ようこそ。ようやくロシアも春ですよ。ここは一般窓口でチェックは厳しいですから向こうの特別窓口に回ってください」
山崎「じゃ、そうしよう。これは君に頼まれた例のものだ。向こうの隅に置いとくよ。マルボロ5カートンだったね」
税関職員「はは、いつもすいません」
山崎「いつもマルボロではあいてしまうだろう。たまにはセブンスターにしたら」
税関職員「いやこれは自分で吸うわけでないからマルボロのほうがいいのです。これが通貨だというのを知っていて山崎さんも人が悪い」

 笑いあう二人

山崎「じゃ、あちらの窓口から失礼する」

 重たい荷物をもって特別窓口に向かう山崎。

〇ハバロフスク空港の玄関口

 そこにペーチャ(25歳)が山崎を待っている。

ペーチャ「へい、へい、山崎さん、迎えに来たよ。外に車を待たせてある、荷物を運ぼう、相変わらず大荷物だね」
山崎「やー、ペーチャ、元気そうだね。そのスーツケース2個を運んでくれ」

 自動車の置いてある駐車場に急ぐ二人。白樺の葉はまだ出ていないが風にそよぐ様は春を思わす。

ペーチャ「あのジグリがそうだ」
山崎「なんだい、ペーチャ、相変わらずおんぼろのジグリかい」
ペーチャ「大丈夫、今にトヨタか日産に変えて見せる」

 笑いあう二人。ハバロフスク市街に向かって走り始めるジグリ。車内でトロイカを口ずさむ山崎。

山崎「(歌)雪の白樺並木 高鳴るバイアン~~~~~」
ペーチャ「山崎さんは相変わらずロシア民謡かい。今ロシアではロックがナウなんだ。それも重いきりビートの聞いたロックでロシアンロックというんだ」

 ラジオのチューナーを回すペーチャ。突然高温量のロシアンロックが聞こえてくる。
耳を思わずふさぐ山崎。

山崎「ペーチャ、そうした音楽は嫌いなのだ。ラジオを止めてくれ」
ペーチャ「(ラジオを止めながら)山崎さんはペレストロイカがどうも理解できないようだね。このロシアンロックこそがペレストロイカそのものなのに」
山崎「ペーチャ、君のペレストロイカはいいから静かにトロイカをうたわしてくれ」

(続く)

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(28.11.6) 病気療養中のため二日に1回の割で過去のシナリオを掲載しています。 「ハバロフスク(第四回 )

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  このシナリオはソ連邦が崩壊した1990年前後を扱ったものです。歴史的なシナリオを描いてみたくて挑戦したものです。(一回からの続き)



〇 イリーナの思い出

 アムール川のさざ波。船の汽笛。たたずむイリーナ。  

イリーナ「(語り)私はこの国を信じていた。この国の技術と国力と正義を信じていた。共産主義こそ世界に平和と繫栄をもたらすと、そう、サーシャと栄光広場の前で何度も何度も語り合った。そして二人して口ずさんだ栄光のソ連国歌」

 映像。ソ連国歌を歌うイリーナとサーシャ「自由の国、揺るがぬ国、永遠に生きよ、わがソビエト、もろびとこぞりてたてし国、栄光あれソビエト同盟・・・・・・・」
風になびくイリーナの栗毛の髪の毛。

イリーナ「(語り)サーシャ、教えてほしいの。この国は自由と平等の国でしょ。男女の差別もなく、能力に応じて好きな学校に入れるのでしょ。私、それを信じて一生懸命勉強したわ。数学だって理科だって英語だって夜遅くまで勉強したのよ。成績もオール5なのに、なぜサーシャと同じ特別英語学校に入れないの。先日リューバ先生にご相談したの。先生とても困った顔をされていた。そしておっしゃたわ。最近は成績だけでなく家庭環境も重要になったんだって。家庭環境って何、私お母さんにそのことを話したの・・・・・・・・」

〇 イリーナの家

 あまり豊かとはいえない集団アパートの一室。イリーナが母親(40歳 すらっとした体形で横顔が美しい)に話をしている。

イリーナ「母さん、私、リューバ先生に将来のことを相談したの」
「それで?」
イリーナ「わたし、サーシャのように特別英語学校に行きたいの。でも校長先生がまだ推薦してくださらないんだって」
「お前はオール5だから必ず推薦してくださるよ」
イリーナ「リューバ先生のお話だと、今は成績だけでなく家庭環境も大事だというの。家庭環境ってどういうこと?」
「(困惑して黙って娘の顔を見る)・・・・・・・・・・・」
イリーナ「サーシャのようにお父さんが党の幹部じゃなければだめなの」
「(強い調子で)父さんはアフガンで名誉の戦死をした国の英雄じゃないか。母さんだってノルマを150%達成した労働英雄だよ。家庭環境は申し分ないじゃないか」
イリーナ「そうよ、そうよね、あたし期待して待ってていいのね」

イリーナ「(語り)母さんは翌日校長先生に相談に行った」

〇 校長室(翌日)

 学校のざわめき。愛想よく応接する校長。

校長「これはこれはイリーナのお母さん、今日はわざわざ学校に何の用ですかな」
「(真剣に)今日は娘のことでどうしても相談させていただきたくて」
校長「ほう、なんでしょうか」
「娘は今一生懸命勉強しています。素行もピオニールの活動も申し分ないといわれています。栄光の灯を守るリーダにも選ばれました。特に英語の成績は親の私の目から見ても素晴らしいものだと思っています。でも娘は今大変悩んでおります。校長先生が娘を特別英語学校に推薦してくださらないのではないかと心配しております」
校長「(当惑気に)いや、いや、それは、よく勉強できる子供は祖国の宝ですので当然推薦は致します」
「では、期待してよろしいのでしょうか」
校長「(言葉を失いながら)いや、それが、実は・・・・・・」
「実は、何か?」
校長「(意を決して)実は推薦はしたのです。しかし、まことに残念ながら不採用の通知が来ました」
「あの子は成績も素行もいいはずですが,なぜ」
校長「(咳払い)うむ、大変申しにくいのですが、昨今はそれだけではなんともしようのない状況が生まれていて、うむ、党やコムソモールからその他の筋からの要請が大変強くなっていて、もっともこれは学校だけの問題ではないのですが、要するにそうした手を打たない限り、希望通りの進学ができない状況なのです。私も忸怩たる思いですが、状況は状況として受け入れざる得ないでしょう」
「では、あの子のためにどうしたらいいのでしょうか。お金でしょうか。何ルーブルy都合すればあの子を特別英語学校に入れることができるのでしょうか」

 気まずい沈黙

(続く)

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(28.11.4) 病気療養中のため二日に1回の割で過去のシナリオを掲載しています。 「ハバロフスク(第三回 )

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 このシナリオはソ連邦が崩壊した1990年前後を扱ったものです。歴史的なシナリオを描いてみたくて挑戦したものです。(一回からの続き)



〇 校長室(続き)

校長「ああ、リューバ先生、あなたですか」
教師「校長先生、いかがでしたか」
校長「サーシャですか、彼なら問題ない」
教師「いえ、ペーチャです」
校長「うむ、よくないですな。成績も悪いが素行が悪すぎます。やはり親のせいですかな」
教師「親御さんに何かあったのですか」
校長「うむ、ここだけの話にしてほしいのですが、ペーチャの父親がイスラエルに移民申請を出しています。先日KGBから連絡がありました」
教師「(驚いて)まあ、イスラエルに移民だなんて、国賊的行為ですわ。やはりユダヤ人はユダヤ人ですわね」
校長「(威厳を込めて)そのような民族主義的な発言はソビエト国家には似つかわしくありませんな。(一息おいて)しかしペーチャの父親ですが今は勤めていた鉄工所をやめて失業中です。この国では失業自体が犯罪ですので、いづれ強制収容所行は免れないでしょう。とても移民申請が認められるような立場ではありませんな」
教師「やはり家庭環境は恐ろしいですわ、そうですか・・・・・」

 不吉な効果音

〇 栄光広場(学校の帰り)

 町の中心にある栄光広場の前でサーシャと同じクラスのイリーナ(女性)が話し合っている。イリーナは栗毛の髪の毛が美しくなびいている美少女。
小鳥の鳴き声。子供たちの遊ぶ声。栄光広場の火を守るピオニールの歩哨。

イリーナ「それでサーシャは特別英語学校に行くことにしたの」
サーシャ「うん、イリーナ、チャンスだからね」
イリーナ「(寂しそうに)そう、じゃ、一緒に勉強できないわけね」
サーシャ「君も特別英語学校に来ればいいじゃないか。成績だって僕と変わらないし」
イリーナ「私の場合校長先生から何も言われないの。もしかしたらだめかもしれない」
サーシャ「どうして」
イリーナ「ペーチャが言うの。コネがないからダメだって。コネのない人は何をしたって無駄だって。だから勉強なんかしてもしょうがないって
サーシャ
「そんなことはないよ。ペーチャは少しひねくれてるんだ。ここは自由と平等が保証されたソビエトだよ。ペーチャの言うことなんか聞かないほうがいいよ」
イリーナ「そうね、そうよね。(気を取り直して)それよりもサーシャ、喜んでほしいの。今度の戦勝記念日の日、私、無名戦士の墓を守る歩哨のリーダに選ばれたの」
サーシャ「(目を輝かせて)イリーナは勉強ができて素行がいいから選ばれて当然だよ」
イリーナ「私、本当にうれしいの。だった私この国がとっても好きだし、平和を愛する唯一の国でしょ。科学だって世界一だし、スポーツだって宇宙開発だってアメリカなんかに負けないわ、でも・・・・・・・・・」
サーシャ「でもどうしたの」
イリーナ「でも私、本当はサーシャと一緒に勉強したいの、サーシャと別れるの嫌なの」

 見つめあう二人。手がふれあい、イリーナの栗毛の長い髪の毛が風になびいてサーシャの肩にかかる。

〇 2年後(サーシャの思いで)

サーシャ「(独白)当時僕はクラスのあこがれの的だった。成績はオール5、そして栄えあるピオニールの班長。若くして未来が約束されていたようなものだ。事実僕はそれだけの勉強をした。決して親父がハバロフスク州共産党中央委員会第二書記だったからではない。
僕はその後特別英語学校に進んだ。英語学校のレベルは高く僕の成績は上の下あたりになったが、それでも僕が希望するたいていの大学はいれる成績だった。モスクワ大学だって夢じゃない。しかしイリーナはなぜか特別英語学校には入学できず、オケアン第一中等学校にとどまった。僕は勉強が忙しくイリーナにも会えない。この間町で偶然にイリーナに会った時、栗毛の後ろ髪が風に吹かれ、それが逆光の中で光っていた。ああ、イリーナもう少し待ってくれ。僕がモスクワ大学に入学できたらまた栄光広場の前で、ソ連邦の未来と僕たちの未来を語り合おう」

(続く)













 

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(28.11.2) 病気療養中のため二日に1回の割で過去のシナリオを掲載しています。 「ハバロフスク(第二回 )

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  このシナリオはソ連邦が崩壊した1990年前後を扱ったものです。歴史的なシナリオを描いてみたくて挑戦したものです。(一回からの続き)


〇 教室(続き)

 サーシャが颯爽と立ちあがってこたえる。

サーシャ「それはデカブリストの乱です。1925年12月、ツァーリズムの転覆と農奴制の廃止を目的として武装蜂起をした青年貴族の革命で、12月に決起したのでデカブリストの乱と言われています。ロシア革命の先駆的革命と位置づけられ、同志ブレジネフも革命記念日の演説でこれを讃えています」
リューバ「(満足げに)サーシャ、よくできました。その通りです。みんなもサーシャのようにいつも予習しておくように。あっ、それからサーシャ、校長先生があなたを呼んでいました。授業が終わったら校長室に行くように。それからペーチャ、あなたも校長先生が呼んでいます。校長室に行きなさい」

 授業が終わるベルの音がする。

〇 校長室に向かう廊下

 サーシャとペーチャが校長室に向かっている。

サーシャ「ペーチャ、校長先生の用事って何だろう
ペーチャ
「そんなこと、おれ知らねいよ」
サーシャ「校長先生に呼ばれるなんて名誉だと思わない?」
ペーチャ「お偉方から呼ばれたときは注意しろと親父が言っていた」
サーシャ「ペーチャ、そんなことはないよ。校長先生はいい人だよ」

〇 校長室

 サーシャがノックをする。

校長「入りたまえ」

 静かに校長室に入る二人

校長「ああ、きみたちか、サーシャ、君から話がある。ペーチャは外で待っているように」

 サーシャが静かに応接用の席に座る。

校長「さて、サーシャ。私は君をずっと見てきたが君は実に優秀だ。成績がすべて5だね。特に英語の成績は抜群だ。素行も申し分ない。しかも君の父上はハバロフスクの州党委員会の第二書記をしておられる。うん、実にいい(満足げにうなずく)」
サーシャ「はい、ありがとうございます」
校長「うむ、ところで君はピオネールの班長をして何年になる」
サーシャ「はい2年になります。ピオネールは今年で終わりですので夏は良いピオネールキャンプをしたいと思っています」
校長「そうかそれはいい。では次はコムソモールか。君は優秀だからコムソモールも喜んで君を迎えるだろう。いづれは共産党に入党するのがいい」
サーシャ「はい、それが父の希望ですので」
校長「そうか、ところでサーシャ、当校としては君の語学の才能を見込んで君を第15特別英語学校に推薦することにした。9学年からはそこで勉強したまえ。君の父上からもよろしくといわれておる」
サーシャ「(満面の喜びを表して)あの、校長先生、特別英語学校に行けるのですか。ありがとうございます。喜んで特別英語学校で勉強します」
校長「うむ、英語学校で成績が良ければ次はモスクワだ。祖国は愛国的で優秀な君のような少年を求めている。頑張って勉強するように。君に言いたかったのはそのことだ。あっ、それから君のお父さんによろしく。ではもう帰ってよろしい。外にいるペーチャを呼んでくれたまえ」
サーシャ「はい、校長先生」

 サーシャが出ていきペーチャがやや乱暴に入ってくる。

校長「ペーチャ、黙って立ってないでそこに腰かけなさい」
 
 音をたたて座るペーチャ。

校長「(威厳をただして)さてペーチャ、君がなぜここに呼ばれたかわかるかね」
ペーチャ「いえ、わかりません」
校長「そうか、わからんか。弱ったものだ。君の成績だが1ばかりだね。かろうじて体育が4か。うむ、なるほどね、特に素行点が非常に悪い。すべての教師が君を反抗的だと言ってるよ。君は頭も悪くないし体も丈夫だ。なのに成績が非常に悪い。なぜだと思う」
ペーチャ「僕が成績をつけたわけでないのでわかりません」
校長「成績をつけたわけでないのでわからんか。そうか、でははっきりと君に言わなければならんようだな。うむ、君を9学年に進級させることは非常に難しい。留年させるのは私の本意ではないが、君の場合は留年するかもっと易しい職業学校に代わるのがいいのじゃないかね。留年するのは同級生も多くてつらいだろうから、私は君に他の学校に転校することを勧めるね」
ペーチャ「(こう然と)他の職業学校に行くつもりはありません。それなら留年します」
校長「(失望した顔つきで)留年を希望か、君の兄さんも相当頑固だったが君も相当なものだな。なら、話はもうない。教室に帰りなさい」
ペーチャ「失礼します」

 ドアーが閉まる。校長が校長室を歩き回っている。ドアーのノックの音。

校長「どうぞ」

 ドアーが開きリューバ先生が入ってくる。

(続く)

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(28.10.31) 病気療養中のため二日に1回の割で過去のシナリオを掲載しています。 「ハバロフスク(第一回 )

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  このシナリオはソ連邦が崩壊した1990年前後を扱ったものです。歴史的なシナリオを描いてみたくて挑戦したものです。



〇 サーシャの思いで

 白樺の小枝が風にそよいでいる。

サーシャ「(語り)僕の名はサーシャ、25歳。ここハバロフスクに生まれ、ここで育ち、ここの外国人専用の旅行会社インツーリストの職員をしている。
僕はこのハバロフスクという街が好きでない。この町はウスリー川とアムール川の合流地点の小高い丘に1649年建設された。

 映像 川の合流地点の影像。そこから丘の上のハバロフスクの街並みを見上げる。

学校の歴史の教科書では、ハバロフという探検家が街を作ったと教えている。ハバロフスクの駅前に彼の立派な銅像が立っている。

 映像 ハバロフスクの駅舎。ハバロフの立派な銅像。

子供のころ僕はこのハバロフの銅像を見るのが好きだった。ハバロフこそシベリアに文明をもたらした先駆者だと長い間思っていた。ペレストロイカが始まる前までは・・・・
しかし本当はロマノフ王朝の毛皮税徴収人に過ぎなかった。この地に最初の砦クレムリを築き原住民を搾取していうことを聞かない原住民は片っ端から銃で撃ち殺し、毛皮税ヤサクを取り立てていた男、それがハバロフだ。

 映像 クレムリ、毛皮徴税の場面。反発する原住民。それを撃ち殺すハバロフ。

だが、そんなことは遠い昔のことだ。少なくとも栄光あるソ連邦の歴史とは無関係のことに過ぎない。
僕はこの町を出たかった。極東一の人口といっても高々60万人、モスクワの900万人に比較すれば全くの田舎町。映画館が二軒となにも売ってないに等しい中央デパートが一つある町。そして19世紀以来変わることのない街並み。まともな大学もなく学問とは全く無縁の町。

 映像 閑散として人がいない中央デパート。19世紀を思わす古い町並み。

いやだ、どうしてもモスクワに住みたい。モスクワこそ文化と文明と権力の象徴じゃないか。僕はハバロフスクに埋もれたくなかった。そのために僕はどんなに努力したことか。中等学校の時だって・・・・・・」

〇 オケアン中等学校(10年前  1980年)

 映像 オケアン中等学校の古めかしい威厳のある校舎。始業を知らせる鐘の音。40名程度の教室の一室。生徒たちのざわめき。教室に教師が入ってくる。

サーシャ「(語り)1980年、オケアン第一中等学校。これが僕が通った学校だ。ソ連邦の10年制の中等学校。この時僕は第8学年、15歳だった」

 映像 生徒の話声、歴史教師のリューバが手をたたく。

リューバ「さあ皆さん、静かにして。あなた方はもう上級生でしょう。栄光あるソ連邦の上級生ですよ」

 静粛になり、生徒は全員教科書を開く。

リューバ「さあ、、今日の歴史はソ連邦の成立です。教科書はちゃんと読んできたでしょうね」

 生徒の肯定的な声と否定的な声が入り混じる。

リューバ「では、ペーチャ立ちなさい」

 服装が崩れて学生服をだらしなく着ているペーチャ。不良少年の趣のペーチャが立つ。

ペーチャ「なんだよ、いつも俺からじゃん。おれソ連邦の歴史なんて知らねいよ」

 生徒の笑い声

リューバ「(威厳に満ちて)ペーチャ、あなたは答える義務があります。前回、ピョートル大帝の事績について先生が質問したとき、あなたは何も答えられませんでした。先生はソ連邦の歴史について事前に読んでくるように言ったはずです。これが質問です。答えなさい。
偉大なる社会主義革命が同志レーニンによって達成された100年前にここロシアに愛国的な革命運動が起こりました。その革命運動の名前とその歴史的背景を言いなさい」

 ペーチャの沈黙。昂ぜんと窓の外を見ている。

リューバ「(語気荒く)ペーチャ答えなさい」
ペーチャ「へへへ、フランス革命、ソ連邦に自由をもたらした革命です」
リューバ「(怒りに満ちて)ペーチャはいつもそういう態度をとるんですね。あなたのその態度は反革命的です。あなたがそういう態度をとり続ける限りこの中等学校で9年生になることはできません。あなたの兄さんもあなたと同じように反革命的でした」
ペーチャ「(急に反発して叫ぶ)そんなこと、俺と関係ねいだろ」
リューバ「(気持ちを押さえながら)次回までによく復習しておきなさい。また答えてもらいますからね。ほかの人、じゃ、サーシャ質問に答えなさい」

 サーシャが席を立つ。模範的な服装とよく整えられた髪。美しく深い緑色の瞳。

(続く)

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