(29.11.13) アラビアンナイトのクーデタ
昔オスマントルコ史を読んでいた時に、次期国王候補者(王子)は全員ハーレムでの生活が義務づけられ酒池肉林の生活ができたのだが、だれか一人が国王になるとあとの王子は全員処刑されたと読んで、「こりゃイスラム世界での国王になるのは大変だ」とひどく同情したものだ。
そのイスラムの伝統が今サウジアラビアで現実のものとなっている。
現在の皇太子はムハンマド皇太子で現国王の息子だが、この6月に正式に皇太子になったばかりでそれまでは他の皇太子が任命されていた。
ムハンマド皇太子は現国王のお気に入りで国王としたら皇太子の地位を安定させたいが、国王は高齢(81歳)で病弱のためいつ病気で倒れるかわからない。だが皇太子の対立候補は山のようにいて、国王が死去すれば皇太子の地位を追われることも予測される。
今回の王子11名を含む王族200名あまりの一斉逮捕は将来を危惧した国王とムハンマド皇太子の合作だが、手法上からのはクーデタであり憲法や法律を無視して逮捕前日に反腐敗委員会という組織をでっち上げ、ここに令状なしの逮捕権と資産没収権を与えた。
簡単に言えば国王とムハンマド皇太子に敵対者とみなされたものはすべて汚職容疑で逮捕されてしまう仕組みだ。
この手法は習近平氏の反腐敗運動をまねたもので王族全員が汚職をしているのは中国とサウジアラビアは酷似している。
従来サウジアラビアの政治では王族の間に権力が分散され国王といっても王族会議(族長会議ともいう)に縛られてしまい独裁権力を行使することはできない仕組みになっていた。
そのためサウジの政治と経済は変革ができず旧態依然としたものになり、王族は伝統に従って汚職の限りを尽くし、聖職者は相も変わらず女性の自動車の運転やオリンピックに出場することをコーランの教えに背くと反対していた。
一方で3000万人の国民は世界最高といえる福祉政策でただで天国にいるような生活を享受している。
「今が幸福の絶頂なのに何を変革する必要がある」
国王とムハンマド皇太子以外は本音でそう考えている。
確かに石油価格が100ドルを超えていた時代には王族が汚職の限りを尽くし、国民が遊び惚けていても問題はなかったが、今は50ドル前後まで低下してしまった。
しかも宿敵イランが隣国のイエメンの反政府勢力を支援して親サウジの政権を倒そうとしているため、サウジはイエメンの血みどろの内戦に軍事支援をしている。
親サウジ政権を支えるために戦費はうなぎのぼりであれほど裕福だったサウジの財政はここ数年大幅赤字に陥ってしまった。
だが国王とムハンマド皇太子以外は相変わらず現状維持が最高だと思っている。
「くそったれの王族たちは俺の地位を狙うことと汚職をすること以外を考えておらず、国民はタダで世界最高の生活を既得権と思っている。財政は火の車で仕方なしに国営石油会社アラムコの株式を上場して世界から資金調達したいのに、アラムコが汚職の巣では世界から資金を集められない。ここは黒いネズミを一網打尽にして荒療治をしよう」
国防と国家警察と治安部隊の権限をすべてムハンマド皇太子に集中して、上からのクーデタを実施した。イスラムの伝統に従って敵対する王子を全員処刑しうるさい聖職者や宗教学者を沈黙させ、サウジを近代国家に生まれかえらせるのが狙いである。
女性に自動車の運転を認め、スポーツをする自由を認めるのが近代国家への最初の道では目標達成ははるかかなただが、それがサウジの現実だ。
最もこの急激な変革に世界は驚いており石油価格は50ドル後半まで跳ね上がり、投資市場ではサウジのオイルマネーの行く末に戦々恐々としている。
このサウジの変革が成功するか否かはもう少し見ていかないとわからないが、世界最高の金持ちでかつ最も時代遅れだった国家が今急激なカーブを切り始めた。
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