(24.12.5) NHK 中国文明の謎 第3集 始皇帝 帝国への野望
NHKが放送したこの「中国文明の謎」のテーマは「なぜ中国は一時的に分裂してもその後大帝国として復活するのか」と言うことだ。
メソポタミアやインダスやエジプトの文明がその後歴史の闇に消えたのに、中国文明だけは今なお脈々と引き継がれている。
中国と言うまとまりは何に起因するのかをこの番組は追い求めていた。
第一集では最初の王朝「夏」が取り上げられ、夏が発明した宮廷儀礼がその最初のノウハウと説明していた。神ではなく皇帝にひざまずかせることによって神なき中国の権威を獲得したのだと言う。
注)詳細は以下参照
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-57d6.html
第二集では「殷」が取り上げられ、ここで漢字を公文書に使用する知恵によって、異なる民族・言語間で共通の理解言語を発明することになったという(漢字そのものは夏の時代に発明されていたがこれは王と神のみ知る神聖文字だった)。
漢字は表意文字だから発音ができなくても意味は分かるので漢字文化圏は広がる。
日本もその中国文化圏の一員だ。
注)詳細は以下参照
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/241124.html
そして第三集では秦の始皇帝が中華と言う概念を逆転させることで、中国を作り上げたという。
もともと中華とは中夏と書いて、夏の末裔を意味した。
日本の例で言えば天皇家につながる家柄と言う感じで、源氏も平家もそうして権威を確保したものだ。
夏・殷・周が都を置いた場所を中原と言ったが、この中原を支配していることが夏の後継者でありすべての権威の根源になっていたと言う。
周が実質的に滅んだのはBC8世紀だが、その後秦による統一がされるBC221年までを(約600年間)春秋戦国時代というが、この間中原に覇を唱えた国はすべて自分たちは夏の末裔だと称した(当時は中原にある国だけが中夏であり、中国だった)。
その頃秦は中原から西に約500kmも離れた遊牧民族で、夏の末裔国家から見ると野蛮人の住むところ、西戎(せいじゅう)と言われていて日本が東夷と言われているのとさして違いがなかったと言う。
しかし秦は名馬の産地で当時の馬は現在の戦車と同じだから、ヒットラーの戦車軍団のように中原の魏やその他の国家を軍馬で一蹴してしまった。
そしてそのとき以来、秦は実は夏の末裔だと称し、「中原とは秦や南の揚子江沿岸の楚までを含めた広い地域をさす」と中原の意味を拡大解釈した。
もちろんもともと中原に住んでいた人々は不満だったが、何しろ秦は絶対的な軍事国家だし逆らうと殺されるのでそれに従った。
「間違いありません。西の西戎も南の南蛮も東の東夷(山東半島当たり)もすべて中原でございます」
こうして中原の地は一挙に拡大したがその領域が中華(中国)だと言うことになった。いわば力ずくで始皇帝が中原を拡大して中原を支配する国中国を作り上げたが、これを中華思想(もともとは夏の後継者の住むところ)と言うのだそうだ。
「なるほどね、宮廷儀礼と漢字と中華思想が中国の接着剤か・・・・・・・・・・・・・」
最近の中国はありとあらゆるところが中国の領土だと言って海洋監視船や海軍を派遣しては周辺国家を脅しているがこれも中華思想のようだ。
秦の始皇帝と同じで軍事力で支配したところはすべて中華(中国)になる(実際チベットもウイグルもそうして中国になった)。
中国からすると中国皇帝に拝謁し(小沢氏が民主党の若手議員を引き連れて拝謁していた)、漢字を使用し(日本、台湾、ベトナム、韓国は何らかの意味で漢字を使用している)、そして中原の一員になることを望む国家(あるいは無理に併合した国家)はすべて中国領にするのが天命だというのだ。
何ともきな臭い話だが、油断すると尖閣諸島も沖縄もそして大和もすべて中国領になってしまいそうだ。
この3部作を見終わっての印象は中国は本当に「この接着剤さえあれば統一に向かうのか」と言う疑問だ。
ソビエト・ロシアもユーゴスラビアもスーダンも大分裂し、世界の趨勢は分裂にあるのだが中国のみは統一に向かうと言うこの番組の主張には疑問がある(そんなことを言えば世界全体が中国領になってしまう)。
やはり現在は中国の拡張期のピークで、そのために拡大に次ぐ拡大をしてきたが、あらゆる帝国にも限界があるようにこのあたりが中国の最大版図だと思ったほうがいいのではなかろうか(だからこれからは分裂の時期に入る可能性が高い)。
注)私から見るとこの番組は1980年代の世界が日本を見ていた見方と同じに見える。当時エズラ・ボーゲルは「ジャパン アズ NO1」と言って日本が次の覇権国家だと言っていた。
この番組を制作したNHKのディレクターもそうした幻覚にとらわれているのではなかろうか。
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