(29.1.15) 鴻海の世界戦略の転換 「保護主義時代には地産地消じゃ」
ここにきてようやく鴻海(ホンハイ)の戦略が明確になってきた。先月中国の広州市に大型液晶パネル工場を約1兆円で建設すると発表したときには、鴻海の郭台銘会長もとうとう焼きが回ったかと思ったが間違いだった。
郭台銘会長の戦略はいわゆる地産地消で、中国の液晶は中国で、アメリカの液晶はアメリカで、そしてインドの液晶はインドで生産することのようだ。
トランプ氏が大統領になることになってから世界の経済情勢は全く以前とは異なる様相を呈している。20世紀後半からオバマ政権まで世界は自由貿易で湧いていたのに、ここにきて自由貿易が急ストップし代わりに保護貿易の時代になってしまった。
世界最大の経済大国で自由貿易の旗手だったアメリカがトランプ氏に代わり100%の確率で保護貿易国家になることが確実で、すでに35%の高関税をちらつかせている。
これでは鴻海のビジネスモデルであるEMS(受託生産方式)が全く成り立たない。鴻海は主として中国に展開した工場でアップルのアイフォーンを生産し、それをアメリカで売りまくってきた。中国に生産拠点を置いたのは人件費が安かったからだが、35%の高関税をかけられては中国で生産するメリットがなくなる。
ソフトバンクの孫正義氏から共同でアメリカに液晶工場を立ち上げようとの打診があり、郭台銘会長の心が動いたようだ。
「中国でのEMSはもうだめだ。アメリカで商品を売るには工場をアメリカに持つ以外に方法はない。それが保護貿易の時代の生き方だろう。シャープを買収していてよかった・・・・」
約1兆円を投資して中国と同様の大型液晶工場を建設するという。
さらに鴻海はインドにも1兆円規模の大型液晶工場を持つ計画を発表したが、これで日本、中国、アメリカ、インドにそれぞれ生産拠点をもって21世紀の保護貿易の時代に対処する体制を整え始めた。
実際にトランプ氏が35%関税をかけるようになればかけられた国は対抗的に同じような関税障壁を打ち立てるから、世界はますます関税障壁が高くなり世界貿易は激減し、必要最低限の物資しか貿易対象にならなくなる。
日本でいえば石油や天然ガスといったエネルギーはどうしても必要なので輸入するが、一方輸出産業はほとんどが現地に出てしまうので国内には国内産業のみ存在することになる。日本の国内消費はGDPの約6割だが、そのあたりが国内生産の目安でエネルギーも今の6割ぐらいで十分になる。
これは世界各国とも同じでだいたいGDPに対する国内消費の割合程度まで世界のGDPは急速に減少すると思ったほうが良い。
第二次世界大戦後アメリカは絶対的な製造業の優位を背景に自由貿易を推進し、その後製造業が日本、韓国、中国に追い上げられると、次は金融自由化によって生き延びる戦略をとってきた。
確かにこれでもアメリカの利益は増大したが、しかし国内的にはひどい富の偏在化が起こりウォール街とその周辺の人だけがうるおい、かつて製造業に従事していた白人の中産階級は職を失ってプア・ホワイトになってしまった。
トランプ氏の支持基盤はこの忘れられたプア・ホワイトで物と金融の自由化にげんなりしていた階層だ。
プア・ホワイトを救うためには保護貿易主義に徹し海外からの輸入を極限まで縮小し、自分たちの国だけで生きていくことだが、こうした生き方が最も適しているのがアメリカだ。
国内には資源が山のようにあり食料も十分に生産が可能で工場さえあればいくらでも生産物を生産できる労働者にも事欠かない。
「自由貿易さえやめれば我々は豊かになる」とトランプ氏は訴えるがアメリカに関しては実際その通りだろう。
経済学に「合成の誤謬」という言葉があり、一国にとって良いことも世界全体としたらマイナスになることを言うのだが、このアメリカの保護貿易はまさにその「合成の誤謬」だ。
今までアメリカの自由貿易政策のおかげで恩恵を被ってきた貿易立国の中国や韓国は最もひどい痛手を被り、日本も相応の影響が出るがトランプ氏にとっては知ったことではない。
こうしていま世界は戦後70年を節目に自由貿易の時代から保護貿易の時代に転換し始めている。
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