(29.11.23) メルケル首相の危機と自由貿易経済の黄昏
こうして後期資本主義文明の指導者が一人一人いなくなっていくのかと思うと感慨深い。
昨年末にはアメリカで民主主義と自由貿易の擁護者だったオバマ大統領が退陣し、アメリカンファーストのトランプ大統領に代わり、今またドイツもメルケル首相が9月の総選挙で敗北したため窮地に陥っている。
メルケル氏の率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は総選挙で245議席になり、第一党ではあるが過半数の355議席を大きく下回ってしまった。政権維持のためには連立を組む政党を見つけなければならず、メルケル首相は自由民主党(80議席)と緑の党(67議席)との連立を模索し、うまく成功すれば392議席になるため過半数を確保できる予定だった。
しかし自由民主党と緑の党は犬猿の仲であり、緑の党が環境問題で石炭火力発電の即時廃止を求めれば自由民主党は財界の経済活動を配慮して大反対であり、また難民問題では難民に対する人道的支援を訴える緑の党に対し、自由民主党は本音では難民の受け入れに反対している。
またフランスのマクロン大統領が主張するEU改革の各国の財政をEU に統合する案は拡大EU に熱心な緑の党が賛成すれば自由民主党は国家の主権が損なわれると大反対だ。
こうした犬猿の仲の両党をメルケル氏が妥協させて連立を組めるかが問われていたが、自由民主党のリンドナー党首が尻をまくってしまった。
「緑の党なんかと連立を組むくらいなら死んだ方がましだ!!」
結局メルケル氏に残された選択肢は緑の党との少数連立政権(312議席)か再選挙かの二者択一になったが、メルケル氏は再選挙に打って出ようとしている。
しかし再選挙に打って出る場合は難民問題で慎重姿勢に転じなければ、極右AfD(国民のための選択肢94議席)に流れた票を取り戻せないし、また財界寄りの姿勢に転じて地球温暖化対策に消極的にならない限り自由民主党に流れた票を取り戻せない。
メルケル氏は12年間の政権運営のスタンスとして民主主義と自由貿易主義を掲げてきた盟主だ。
前者の具体的政策としてシリア難民の大幅な受け入れ、後者の具体的政策としてEUの拡大と財政統合に積極的だった。
だがこうしたスタンスを大幅に修正しない限りメルケル氏の勝利はない。
「あたしに民主主義の根幹の人道主義と、自由貿易に制限を加えれというの・・・・・」
苦悩は深まるばかりだ。
後期資本主義文明だけに花開いた民主主義と自由貿易主義がメルケル氏の転身で今21世紀の世界から消えつつある。
最後の残されたアンカーは日本の安倍首相だけだが、安倍首相だけで世界の民主主義と自由貿易を引っ張ることは荷重だろう。
21世紀に入り後期資本主義が限界に達し、残された方策は金融緩和による株式と不動産の値上がり益を求めるだけになってしまい、富の偏在が顕著になっている。
世界中で中産階級が崩壊し金持ちと貧乏人ばかりの世界になってしまった。
金融緩和を止めれば完全に成長は止まり、続ければ富の偏在による社会的緊張が増す。
アメリカはすでに後期資本主義文明から降りてしまい、今ドイツがメルケル氏の苦渋の選択で降りようとしている。民主主義と自由貿易が世界から消えれば、後はローマ帝国滅亡後のゲルマン社会と同じになりジャングルのおきての世界になるだけだが、それを防ぐのは安倍首相一人になってきそうだ。
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