(27.7.19) アメリカとイランの歴史的合意 互いに協力してイスラム国をつぶそうじゃないか!!
アメリカにとって主要な敵が20世紀型から21世紀型に変化した。
2001年9月11日、アメリカはニューヨークの貿易センタービル等4か所を同時に攻撃され約3000名もの犠牲者を出したが、それは国家による攻撃ではなくアルカイダというテロ組織による攻撃だった。
21世紀に入ると敵の所在が明確な国家から国家を装う組織に変わったのだが、アメリカもようやくそうした21世紀型の敵からの防御を第一においた戦略に転換し始めた。
冷戦の遺物ともいえたキューバとの和解を成し遂げたと思ったら、今度はイランとの和解が実現した。イランは1979年のイスラム革命でアメリカ大使館員が人質に取られ追い出された屈辱の場所である。
以来テロ支援国家としてアメリカの主要な敵であったが、実際は中東での危機要因ではあってもアメリカの直接的な脅威とは言い難たく、イランが直接アメリカを攻撃する危険性はほとんどなかったといえる。
宗教的にはスンニ派のサウジアラビヤがシーア派のイランと対抗し、またイスラエルがシーア派のテロ組織から自国を守るために主敵としたのがイランだった。
それでもアメリカが中東問題にかかわらざる得なかったのは二つの要因がある。
一つは経済的要因で長らくアメリカは中東から石油を輸入していた。日本が中東から石油と天然ガスの輸入を行っているが日本にとっての中東の重要性と同じ意味でアメリカにとって中東が重要だったといえる。
もう一つの要因はイスラエルでアメリカはユダヤロビーの影響力が極端に強く、イスラエルを防衛することが国家戦略にまでなっていた。
イスラエルを攻撃する国はすべてアメリカの敵であり、かつてはエジプトが、そして最近はイラクとイランがその主敵とされていた。
しかし21世紀に入り情勢が大幅に変化した。アメリカはシェールガス・オイル革命に成功し石油や天然ガスの輸出国になって中東は商売敵になってしまった。
中東情勢がどうなろうとも石油確保に狂奔する理由がなくなり、それまで中東最大の同盟国だったサウジアラビアとの間で隙間風が吹きすさび始めた。サウジアラビアがアメリカの戦略的パートナーだった時代が終わったのだ。
注)サウジアラビアとアメリカの関係が冷却したことについては前に述べてある。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/ppp-5.html
またイスラエルは相変わらず周辺諸国と緊張関係にあるが、所詮はイスラエルの問題であり未来永劫にイスラエルを守るためにアメリカが軍事介入をする理由が薄れてきた。
「いつまでたってもイスラエルの問題ではあるまい。それにネタニアフはやたらと強硬であんな奴に引っ張られるといつまでも軍事介入をし続けなくてはならなくなる」
オバマ政権になりイスラエルの防衛を実質的に放棄したため、イスラエルのネタニアフ政権とは犬猿の仲になり、ネタニアフ氏とオバマ氏はまともに口もきかない仲になっている。
こうした情勢変化のもと、オバマ政権は中東問題を20世紀型から21世紀型に変えるため、イランとの歴史的和解を行ったが、これはアメリカが大幅に譲歩したことにより実現した。今回の合意はイランに核開発の可能性を残したまま、実質的に核開発をさせないという非常に奇妙な合意になっている。
核開発にはウランの濃縮が必要でそのための遠心分離機が多数必要なのだが、合意ではこの数を3分の1に減らさせて核開発の速度を3分の1にさせるという、何とも不可思議な協定だ。
「時間がかかってその間にイランも馬鹿馬鹿しくなってウラン濃縮など止めてしまうだろう。もし協定を破って濃縮を始めたらIAEAの核査察でチェックし、ふたたび経済制裁を科す」ということだからイスラエルのネタニヤフ氏がかみついたのも無理はない。
ネタニアフ氏は単独でもイランの核施設の攻撃をしかねないほど激怒していたが、だからといってイスラエルがアメリカの合意なしにイランと戦争状態になることは不可能だからオバマ政権としたらイランとの核協議をこれで切り上げることにしたようだ。
現在アメリカにとって最も危惧される問題はイスラム国の台頭で、イスラム国がかつてのオサマ・ビンラディンに率いられたアルカイダのようにアメリカを攻撃してきては一大事だ。
イランがアメリカを攻撃することはないがイスラム国はどうなるか分からない。
注)ネタニアフ政権とオバマ政権の関係については3年前に以下のような記事を記載してある。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-ec30.html
何としてもこうしたテロ組織をつぶしたいが、そのための最大の協力者が皮肉なことにイランになっている。
イランはスンニ派主導のイスラム国を制裁するために革命防衛隊という実質的な陸上部隊を派遣して封じ込めのための戦いをしている。
まともに戦っているのはイラク政府軍ではなく、イランの革命防衛隊だからアメリカとしてはイスラム国掃討作戦ではイランが最大の友になってしまった。
ちょうど第二次世界大戦の時のアメリカとロシアの同盟のようなもので共通の敵イスラム国を退治するまでは立派な同盟者だ。
2015年7月、こうしてアメリカとイランは歴史的合意に達し、核開発の可能性をのこしたままアメリカとイランは共通の敵イスラム国に立ち向かうことになった。
取り残されたイスラエルと中東で主導権争いをしているサウジアラビアはこの合意に全く不満だが、これしか中東紛争を解決する手段はないというのがオバマ政権の判断で、アメリカは中東問題を21世紀型に再構築することにしたといえる。
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