(29.10.2) 投機資本主義の終焉 既成政党の没落 そして日本も
今思うとトランプ大統領が選出された16年11月が歴史の分水嶺だったことがわかる。
あの時以来20世紀後半に花開いた民主主義政党や政治家が次々に落選するか、後退し始めた。
トランプ大統領は共和党の大統領だが、共和党の主流派はもちろん多くの共和党議員からは全く支持されていない。一匹狼のような存在でその言動は特異で特にアメリカを代表するリベラル系のマスコミとは犬猿の仲だ。
この不思議な動きはその後も継続し、17年5月フランスでは無所属のマクロン氏が大統領に選出されたが、対抗相手は国民戦線(右翼政党)のルペン氏だった。それまでフランスを率いてきた共和党も社会党も見る影もなく崩壊してしまった。
またイギリスでメイ首相はEU離脱交渉で国民の絶対的支持を得ようと17年6月総選挙に打って出たが、大勝のはずがぼろ負けで、せっかく維持していた過半数を割り込んでしまった。
最近のドイツの総選挙では経済は絶好調で失業率は歴史的な低水準であるにもかかわらずメルケル氏率いるキリスト教民主同盟が第一党を保ったものの大敗し、右翼政党が大躍進している。
いづれも既成政党で政権維持政党が大敗し、ポピュリズムの大統領(トランプ氏,マクロン氏)が大勝したり右派政党が伸長している(ドイツ、フランス)。
イギリスはもともとEU残留支持の保守党が国民投票で惨敗したため本来残留派の保守党が離脱交渉をするねじれ現象になっており、そのメイ首相が敗れたという構図になっている。
さて日本では自公合わせて3分の2を確保して安定していた安倍政権が突如総選挙を実施することにしたが、一方東京都議選で大勝した希望の党に中道右派の野党各党が雪崩を打って参加する構図になって、ここも全く予断を許さなくなってきた。
自公連合が過半数割れにでもなれば、世界の民主主義国の既成政党が総崩れになることになる。
なぜここにきて既成政党に対する支持が弱まっているかというと、高度に発展した資本主義体制にこれ以上成長余力がなくなり、それでも成長させるために金融の超緩和による投機資本主義に移行したからである。
リーマンショック以来10年、アメリカ、日本、EU、それに中国の金融当局が行ってきた金融政策は資金を直接市場に供給する政策で、それまでの公定歩合操作による金融政策や、財政政策による公共工事の増大とは全く異なるものだった。
簡単に言えばケインズによる財政金融政策の効果が全くなくなり、仕方なしにお札を大量に印刷して市場にばらまいたと思えばいい。
元FRB議長のバーナンキ氏が言っていた「景気を回復したかったら紙幣を印刷してヘリコプターでまけばいい」という政策である。
これにより先進資本主義国や中国は表面上は景気が回復したように見えるが、投入された資金はもっぱら株式や不動産、それに金やビットコインという投機財に流れていき、生活必要品等の実需には全く結び付いていない。
「今更生活必需品を増産したって誰も買わないよ。それよりは投機よ、投機!!」
この投機資本主義でも成長はするのだが、最大の弱点は持てる者と持たないものの所得格差が拡大することだ。投機財(不動産、株式等)を扱う投機家には莫大な利益をもたらすが、主として工場労働者だった真面目な生活人(これを中産階級といってきた)は徐々にいなくなり、パートタイマーの労働者ばかりになってしまった。
金持ちと貧乏人の対立構造だが、貧乏人も金持ちに一矢を報いる手段を持っている。それが選挙の一票で、怒れる貧乏人(多くは若者)は選挙になると怒って既成政党でなく、極右政党やポピュリスト(希望だけはあるが内容は一切ない、しがらみのない政党や人物)に投票してしまう。
トランプ氏もマクロン氏もこうして選ばれ、既成政党が頑張っているドイツでも右派政党が大躍進した。
そして今日本でも「希望という名のあなたを求めて」多くの怒れる若者や貧乏人が希望の党に投票しようとしている。
国を支えるのは穏健な思想を持つ中産階級だが、その存在基盤が薄れれば薄れるほど、資本主義体制を支えてきた既成政党は怒れる貧乏人の反逆にあっているのだ。
リーマンショックから10年、投機資本主義にも賞味期限が到来し既成政党(金融緩和策しか政策手段を持たない政党)が没落しつつあり、日本にもその余波が現れ始めた。
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