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(27.11.17) サウジアラビアの反逆 「原油価格がどうなろうと知ったこっちゃない!!」

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 サウジアラビア
といってもほとんどの日本人はその動向を気にしたことはないのではなかろうか。イランのようにやれホメイニ革命だ、イラン・イラク戦争だ、核開発だといったお騒がせもなく、イラクのようにアメリカにたてついて戦争を仕掛けられることもなく、シリアのように内戦が起こっているわけでない。
いわばとても安定した王国で、アメリカの良きパートナーであり、石油危機が発生すると石油を増産して価格を下げたりするので、なにか中東のビッグ・ブラザーのような存在と私などは思っていた。

 しかしここに来てそうしたサウジアラビアのイメージは大きく変容しつつある。
世界中が驚いたのは石油価格が1バーレル50ドルを割り込み40ドル近くになってもサウジアラビアが減産に応じず、かえって増産したりしていることだ。
かつてのサウジアラビアは減産を一手に引き受けて価格を安定させOPECの盟主としての役割を演じてきたので信じられないような変容だ。
なぜ減産に応じないかの理由を「アメリカのシェールオイルやシェールガスをつぶすため」と言ったのにはさらに驚いた。

 もともとアメリカとサウジには石油と安全保障の密約があり、原油代金はすべてドルで決済することを条件にアメリカはサウジアラビアの安全保障を請け負ってきた。
サウジはスンニ派の盟主だが、ペルシャ湾を挟んでシーア派の盟主イランが存在し、すきあらばサウジアラビアに戦争を仕掛けるとサウジは本気で思っていたし、その場合はサウジ一国ではイランに対抗できないのでどうしてもアメリカの後ろ盾が必要と判断してきた。
イランの人口は約8000万人で一方サウジアラビアの人口は約3000万で、圧倒的に人口が少ないがそれ以上にイランは過去イラクとの戦争で戦争経験は十分だし、一方サウジアラビアの若者はふやけていて国家収入での生活保障が十分なためとても戦士としての資質がない。

注)アメリカとサウジの隙間風については前に詳述してある。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/ppp-5.html

 長い間サウジとアメリカの密約は守られてきたが、オバマ政権になってからほころびが生じた。最大の理由はアメリカが原油の輸出国に変わってきたことで、シェールガスとシェールオイル革命でアメリカの中東依存度は劇的に下がった。
もうサウジの石油は必要ないのだからサウジを軍事的に支援するのもほどほどにしよう
アメリカのサウジ離れが始まった。

 それが誰の目にも明確になったのはイランと安全保障理事国5か国+ドイツとの核協議で、歴史的和解がなされたと7月にアナウンスメントされたが、実際はかなりの妥協の産物だった。
歴史的和解の内容ではどう読んでもイランが将来核開発をすることを停止できそうになく、これにはサウジが完全に切れてしまった。
アメリカはイランが実質的に核保有国になることを認めた。我が国は独自でこのイランの核に対抗しなければならない。わが国はアメリカを頼らない!!

注)核協議の内容は以下参照
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-9868.html

 サウジはそれまでのアメリカとの協調路線を放棄してロシアや中国に接近し、特にロシアからは最新鋭のミサイルや航空機の購入を図ろうとしている。
アメリカが防衛を放棄する以上、わが国は独自の防衛システムを構築する
いまやサウジの年間の軍事費は9兆円規模でロシアを抜いている。

 サウジアラビアの軍事費がうなぎのぼりに増加したのは隣国イエメンにシーア派政権ができたためで、スンニ派の大統領が追い出されてしまった。
サウジにとってはイエメンはアメリカのキューバのような状況になり、5月以降シーア派のフーシ派に対して空爆を行っている。
しかし戦況は一進一退で、泥沼の様相であり軍事費を削減する余裕はない。

 サウジが減産に応じられない理由の一つがこのイエメン戦争で、軍事費が嵩んでそれどころではないというのが実態だ。
国家予算の9割は原油収入だが原油価格は40ドル近くに低迷しており、国家予算は約半分が歳入欠陥になっている。
IMFの試算ではこのままの状況が続くとサウジの蓄えは5年で枯渇するといわれている。
それでもサウジは減産に応じず、かえって増産することでOPECの足並みを乱している。
うるせい、今はほかの国のことなど考えていられねい。イエメンからシーア派を追い出さないといずれサウジが革命に巻き込まれる。軍事費の増大がなんだ、石油は目いっぱい輸出するぞ!! 原油価格が下がっても俺の知ったこっちゃねい!!」

 
サウジはアメリカの同盟者としての立場を放棄してしゃにむにイエメンに介入しており、そのために減産など夢のまた夢になってしまった。
かくして原油価格はサウジがイエメンに軍事介入している限り低迷しそうになっている。

 

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評論 世界経済 サウジアラビア経済」カテゴリの記事

コメント

ガソリン価格、安くなったのは助かります。
12年前の日記を見ましたら、2003年11月12日甲州街道の千歳烏山付近で92円/Lで給油の領収書があります。
特に競争が激しい地区で横浜で当時98円/L程度、嬉しくなって満タンとあります。 退職したばかりでまだ元気があった頃です、深大寺にソバを食べに行きました。

今 一時より大分下がって横浜で115円/L程ですが、もう歳ですね車で走り回ることはありません。 深大寺もそれっきりです。
スタンドの前を通ると必ず横目で価格表を見比べ安ければUターンしてでも給油。ガソリンスタンド業者に負けるものかと慣性を生かし節約運転してます。 
が、今日の記事を読み 手のひらの孫悟空 とよく分かりました。どうにもなりません。 空しい努力です。

投稿: 絶望人 | 2015年11月17日 (火) 09時40分

>>2003年11月12日甲州街道の千歳烏山付近で92円/Lで給油の領収書があります。

例えば、現在、ベトナムではガソリンは60円/L程度。日本人はガソリン税に鳴らされていますね。笑

>>いまやサウジの年間の軍事費は9兆円規模でロシアを抜いている。

日本は原発の大部分を停止し、中東の原油を購入しています。サウジをはじめ、カタール、クウェート・・・日本が支払った代金は、シナやロシアの武器購入費となります。だから、ナンセンスだから、武器輸出禁止なんてやめろと思っています。シナを潤しているから、昔、ODA援助して、そのカネでシナがミサイルを開発していた構造と大同小異だと思います。

>>なぜ減産に応じないかの理由を「アメリカのシェールオイルやシェールガスをつぶすため」と言ったのにはさらに驚いた。

だれか・・アメリカがロシアを潰すためっていってませんでしたっけ?

>>原油価格はサウジがイエメンに軍事介入している限り低迷

イエメンでは、サウジ(スンニ)とイラン(シーア)の代理戦争をやっていますから、負けられませんね。
ところで、サウジって王国ですが、王国と独裁国家(例えば、フセインの世俗イスラム国家)って見分け方はなんでしょうか?

投稿: NINJA300 | 2015年11月17日 (火) 10時43分

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