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(27.9.15) 難民受入でEUが崩壊する。 国境検問所の再開

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 そうは問屋がおろさなくなってきた。EUが受入可能なシリア難民の数である。当初は4万人ということになっていたがシリア難民が大挙EUに押し寄せたので、これを16万人に増やした。
しかしこの数字もまた変更になるだろう。
何しろいまEU国内にいるシリア難民はすでに40万人に達し、さらにトルコとヨルダン国境には約400万人のシリア難民が機会さえあればヨーロッパに押し寄せようとチャンスを狙っている。
さらシリア国内にも国内難民が約700万人はいると推定されている。合計では1100万人を越える。

 こうしたシリア難民が大挙してEUに押し寄せ始めたらEUはパニックに落ちる。
何しろ16万人の受け入れについても、前向きなのはドイツとフランスだけで、イギリスはいやいやながらの参加だし、他の諸国特に東欧圏は「絶対に反対だ」といっている。
ドイツは各国別に難民の受け入れ人数を割り当てようとしているが、それが可能だとしても16万人分しかない。
すでにEUに入りこんだ40万人には到底及ばないのだ

 イラクやアフガニスタンからの経済難民は母国に強制送還だが、シリア難民は強制送還するわけにはいかない。ここは戦闘地域でNATO軍も先頭にたって参加している紛争地帯だ。
シリア人はみんな政治難民です」というのが建前になっているので追い返せないのだ。
こうした情報はすぐにトルコやヨルダンの難民キャンプで絶望的な日々を過ごしているシリア難民に伝わる。
彼らがトルコやヨルダンにとどまっているのは密航斡旋業者に支払う金がないからだが、一家の誰かがドイツに入国さえできればそこから密航費用を送ってもらえる。
だからEUが16万人の入国枠を認めれば、あとは怒涛のように難民が押し寄せることは間違いない。

 だが現状で難民受け入れが可能な経済状況の国はドイツしかない。フランスなどは経済が低迷し国内に若者の失業者があふれかえっているのに無理を承知で受け入れるという。EUの盟主の地位を完全にドイツに奪れたくないからだ。
だがその他のスペインやポルトガルやイタリアも経済は超低空飛行だし、まして東欧圏のポーランドやハンガリーやチェコやバルト3国などは経済そのものが崩壊している。
こうした国の人々はドイツやイギリスに出稼ぎをすることによってかろうじて生活しているのだからシリア難民とさして変わらない。
シリア難民は東欧圏の人々にとって競争者だし、フランスやスペインやポルトガルの若者にとっても同じだ。
ドイツの職場はEUのものだ・・・・・」東欧と若者の本音だ。

 テレビ報道などを見ていると受け入れ賛成派のデモが頻繁に取り上げられており、EUはシリア難民に寛大なように見受けられるがこれも今のうちだけだ。
膨大な数の難民がドイツに来ればドイツの経済負担も膨大になる。
大人であれば最低限の生活保障と職業訓練でなんとかドイツの下級労働者にすることができるが子供はそうはいかない。
当然義務教育訓練をしなければならないし、小学校から大学までなら16年前後はかかる。それまでの教育費の負担や生活保護の負担はすべてドイツ政府のものだ
現在ドイツ政府が用意している難民関係予算は1兆3000億円程度だが、これはせいぜい受入れ数を4万人から6万人程度に想定しての予算規模だ。
ドイツ政府の予測では本年度約80万人の難民申請があることになっているが、もし全員を受け入れたら予算規模は26兆円規模になる。
日本の国家予算が年間約100兆円だから、この金額がいかに膨大か分かるだろう。

 今後EUにとって最大の課題はこの難民問題になる。それに比較すればギリシャの債務問題などうでもいいように思えるほどだ。
EUは難民受入賛成派と反対派が鋭く対立して身動きができなくなるだろう。
当然ドイツは世界中で難民を受け入れてほしいと国連等で嘆願するだろうが、もともと愚かにもアサド政権を打倒しようと軍事行動を起こしたのはEUとアメリカだから今の状況は自業自得ともいえる。

 私は前にもかいたが、独裁政権は決して打倒してはならない。独裁政治でも最低限の生活保障はあるので少なくとも難民になるほど困窮してはいない。かえって経済的には安定していることが多い。
もちろんそうした抑圧体制に我慢ならない人々はいるが、その場合は個人的に逃散すればいいので手段はいくらでもある。
独裁政治を嫌って逃げ出した人程度の難民保護ならばどこの国でも簡単にできる。

 しかし反対に独裁政治を倒して内戦が始まるともうどうにもならない。シリアだけでも国外国内に合わせて1100万人程度の難民が発生し、これにイラクやアフガニスタンやリビアの難民を加えると数千万人の単位となる。
これがヨーロッパに押し寄せるのだからかつての西ローマ帝国を打ち倒したゲルマン民族の大移動並みになる

 現在はまだ難民受け入れ派の勢いが強いが、時間が経つにつれて現実に目覚め国境に検問所を設けることになるだろう。
現在ハンガリー、チェコが鉄条網を張り巡らしているが、ドイツもオーストリアとドイツの国境で検問所を設けることにした。
EUから国境がなくなって久しいが、今また国境検問所が復活しつつある。人道主義は過ぎると国家そのものへの崩壊につながる危機感を各国が感じ始めたからだ。
心の優しい人が国家を崩壊させ、冷たい人が国家を守る」それが現実なのだ。

 

 

 

 

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評論 世界経済 ヨーロッパ経済」カテゴリの記事

コメント

難民問題は他山の石ですよ。
ごく近くに、とんでもない国が3つもあるから。

投稿: 通りすがり | 2015年9月15日 (火) 06時59分

山崎所長 (=゚ω゚)ノ毎度!

オイラが8月30日にコメしたように、善人ほど扱いに困るものはありません。何故なら、悪意がないから。

難民を受け入れる事は素晴らしい人類愛に満ちた行為ですが、結果、大きな困難をもたらします。

まだ、悪人の方が扱いやすい。

投稿: ナニワ金融 | 2015年9月15日 (火) 08時33分

上記の内容 以下で橘氏のコラムでも同内容でした

なるほどなあと感じます

ヨーロッパの難民は「理想」が生み出した 週刊プレイボーイ連載(212)
投稿日: 2015年10月5日 作成者: tachibana
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ヨーロッパにシリア、イラクなど紛争地帯からの難民が大量に押し寄せ、各地で混乱を引き起こしています。EU(欧州連合)は今後2年間で難民16万人を各国に割り当てる案を発表しましたが、中・東欧諸国を中心に反対論が根強く、議論は紛糾しそうです。

これまでの経緯を振り返れば、難民の発生は、シリアで反政府運動が高まりを見せた2011年1月にまで遡ります。シリアは少数派のアラウィー派が、独裁と秘密警察によって人口の4分の3を占めるスンニ派を支配する特異な政治体制で、ハーフィズ・アル=アサド前大統領は1982年、敵対するムスリム同胞団(スンニ派)の拠点ハマーの街を攻撃し、1万人から4万人とされる多数の市民を虐殺しました。現在のバッシャール・アル=アサドはその息子で、政権の中枢はアサド家をはじめアラウィー派で固められています。

シリア内戦はスンニ派対シーア派の中東諸国の代理戦争でもあり、イランが同じシーア派の系統に属するアラウィー派のアサド政権を支援するのに対し、反体制派の背後にはサウジアラビアなどスンニ派の湾岸諸国がいます。さらに、アサド政権が市民デモを徹底的に弾圧したことから欧米諸国が態度を硬化させ、2013年にはEUが反体制派への武器禁輸を解除しました。

ところがここで、両者が予想だにしないことが起こります。イラクの政治的混乱とシリアの内戦で権力の空白が生まれると、そこにIS(イスラム国)というカルト的な武装集団が台頭してきたのです。ISが通常のテロ組織と異なるのは、強力な軍事力を持っていることです。シリアの反体制派は湾岸諸国のオイルマネーで大量の武器をEU諸国から購入しましたが、戦況が悪化するとそれをISに転売したのです。

これはあくまでも結果論ですが、欧米諸国は民族・宗教対立を、民主化を求める市民運動と誤解したといわざるを得ません。民主化運動であれば、ひとたび政権が交代すれば和解の道が開けるかもしれませんが、恐怖と憎悪に支配された民族紛争に許しや寛容はありません。旧ユーゴスラビアの凄惨な内戦を見ればわかるように、復讐の悪夢から逃れるには、敵を殺しつくし、民族を“浄化”するしかないのです。――そうでなければ、敵が同じことをするでしょう。

アサド政権は、権力の座を奪われれば自分たちが皆殺しにされることを知っていますから、戦いを止めることはできません。かといって湾岸諸国とEUに支援された反体制派を圧倒することもできず、戦況は膠着し、シリア社会は崩壊していきます。当初はアサド政権の退陣を要求していた欧米諸国も、ISの台頭で思考停止に陥り、ほとんど効果のない空爆を繰り返すだけになりました。こうして、生きていく方途を失ったひとびとが難民になって欧州を目指し始めたのです。

じつはこの解説は、ロシアのプーチン大統領によるものです。プーチンはシリア内戦の最初から、欧米の「人権」による介入を批判し、権力の空白よりもアサドの独裁の方がはるかにマシだと主張しました。リアリズムと理想論のどちらが正しかったかはいまや明らかですが、リベラルな欧米諸国がこの事実を受け入れることは不可能でしょう。そしてこれから、そのツケを払うことになるのです。

投稿: 山崎ファン | 2015年10月 5日 (月) 11時13分

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