(25.8.30) ロドリゴ 北アルプス縦断記 その1 準備
(馬場島キャンプ場のバーベキューハウス。ここで初日は寝た)
マラカの大主教クナーカ様からひそかな密命が届いたのはキリスト歴2013年の8月の始めのことでございました。
「ハポンで開かれているトランス・アルプス・ジャパンレースのコースを視察しその詳細な内容について報告せよ」というものでございましたが、クナーカ様は次回のジャパンレースのおりにはエスパニアの誇る修道士キリアン・ジョルネ殿を優勝させ、ハポンにおける布教活動の一助にする計画とのことでございました。
「何しろハポネスはマラソン好きだから、この山岳レースでわがエスパニア人が優勝すればエスパニアの実力を見直し、あげて主の教えに従うはずだ」
注)キリアン・ジョルネ修道士はウルトラ・トレイル・デュ・モンブランの優勝者でわが祖国エスパニアの誇りでございます。
トランス・アルプス・ジャパン・レースとは日本海の富山湾を出発し、北アルプス・中央アルプス、南アルプスを経て駿河湾まで走り抜ける420kmのハポン有数の山岳レースで、このところ駿河の国の住人で火消しの頭、望月将悟殿が常に優勝をしている過酷なレースでございます。
「クナーカ様、してこのロドリゴは一体何をすればいいのでしょうか」
「行け、そしてコースを下見し、その具体的コース内容を報告せよ」
「しかしロドリゴにはカメゴンの食事の世話をしなければならず、また齢67歳にもなって頭も禿げてしまい、旅費の工面もできません。費用はクナーカ様からいただけるのでございましょうか」
「ロドリゴよ、金のことを言うのは卑しい人間のすることじゃ。費用はいつものように自己調達せよ。カメゴンにはしかるべく言い聞かせよ。そうじゃ、禿隠しにはわしが使用した野球帽を送ろう。すべて主の御心と心得よ!!」
カメゴンには何とか1週間分の食料を残すことで説得したものの、ロドリゴにとって最も困難な課題は旅費の調達でございました。
致し方なく近在の農家からスイカを安く調達し、それをおゆみ野近在の篤信の信者に販売しようやくのことで縦走費用を整えたのでございます。
こうして私ロドリゴがこのレースの視察に出発したのはキリスト歴8月20日のことでございました。
当初は北アルプス、中央アルプス、南アルプスの全山の視察を命じられましたが、それではカメゴンが餓死してしまうことと、ようやく篤信の信者から集めた金額はせいぜい1週間程度の山行が可能な金額でございました。
「クナーカ様から費用をいただけるならば全山走破も可能なのですが・・・・・」
「ロドリゴよ、金のことを言うのは卑しいもののいう言葉じゃ。費用が1週間分なら主も1週間で許してくれるであろう」
かくしてクナーカ様のお許しも出て、約1週間の北アルプス縦走をすることになったのでございます。
今回の視察のルートは北アルプスの北端、剣岳の登山口から登頂し、立山、薬師岳、黒部五郎岳、双六岳、槍ヶ岳を経て穂高に登り、そこから上高地に下山するルートでございました。
登山に詳しくない方はイメージがわかないと思いますが、この中で剣岳の縦走と槍から穂高にかけての大キレット越え、それに北穂高から奥穂高への小キレット越えが日本でも有数の難所なのでございます。
注)ジャパン・アルプスレースでは槍から降りるのですが、かつて孤高の登山家と言われた加藤文太郎氏が冬の北アルプス縦走を行って穂高まで行きましたので、ロドリゴもそのコースをそっとたどることにいたしました。
こうして富山の国上市部落というところにようようたどり着いたのは午後3時頃でございました。
ここからはJRも地方鉄道もなく、かつてはここからバスで剣岳の登山口馬場島まで行けたのですが、不況の影響でバス会社が撤退してしまい、今は雲助だけしかいない場所になっておりました。
上市部落の駅舎でうろうろしていたところさっそく雲助から目を付けられました。
「禿のだんな、馬場島まで行くんなら安くしとくぜ、籠にのらねいか!!」
「して,籠の費用はいかほどに?」
「まあ、25Kmあるから、8500円程度だな!!」
もし他に登山客がいて費用を折半できるなら籠に乗ってもよいと思いましたが、この時期上市部落から登山する客はほとんどおらず折半をする相手はいなかったのでございます。
歩くと6時間から7時間はかかり夜の見知らぬ山道を歩くのはかなり苦痛ではありました。
しかしロドリゴには行商でかろうじて溜めた費用しかなくとても籠代を支払う余裕はなかったので、意を決して歩くことにいたしました。
「ケチな客だな、クマにでも食われてしまえ」そう雲助が悪態を付いておりました。
夜道を歩くのは薄気味悪いもので、それも山道となれば時に自動車がすれちがうものの人一人としていないのでございます。
番場島は標高750m程度で、早月川(はやつきがわ)に沿って県道剣岳公園線をひたすらさかのぼるのですが、かつてはところどころにあった集落もなくなり、学校跡や役場の支社跡が薄明りの中で往時の面影を残しているだけでございました。
夜の9時ごろにようやく馬場島のキャンプ場にたどり着き、屋根のあるバーべキューハウスの中で寝ることにいたしました。
注)剣岳の早月尾根ルートについては以下の地図を参照
http://www.town.kamiichi.toyama.jp/hp/kanko_turugi/root.htm
この時期このキャンプ場にテントを張る人は一人としておらず、ロドリゴは疲れていたためマットを引いて寝袋で寝たのですがこれはひどい失敗でございました。
屋根があるからテントは不要と判断したのですが夜中に蚊の大群に襲われ、気が付いたら手と顔をさんざん刺されてしまいました。
たまらずテントを張ってもぐりこんだものの、馬場島の蚊はおゆみ野近在の蚊と違った種類で、抗体がなかったせいかその後2日程度かゆみが引きませんでした。
(この日は夕方から小雨が降っており、夜中には土砂ぶりになった)
夜中になりかなりひどい雨が降り始めましたが、ロドリゴは明日からの登山に備えてこのバーベキューハウスでひたすら寝ることにいたしました。
ロドリゴは全く知りませんでしたがこの日から富山の国の上空には前線が張り出し、山は荒れ模様になっていったのでございます。
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コメント
ロドリゴさん、お疲れさまでした。こういうの読むの大好きです。続編を楽しみにしております。無事帰ってこられてよかったです。
(山崎)謙さんに喜んでもらえるのはとても嬉しいです。一日おきに記載する予定です。
投稿: 謙 | 2013年8月30日 (金) 16時30分