(25.6.5) NHK「エネルギー争奪戦、日本の逆襲」 天然ガスの時代
私が好んでNHKスペシャルを見るのは時に非常に優れた番組を放送するからだ。
今回の「エネルギー争奪戦、日本の逆襲」もそうしたNHKでなければできない番組と言える。日本の商社がアメリカとロシアを相手にLNG(液化天然ガス)獲得競争をしている現状をリアルタイムで教えてくれた。
現在の日本の苦境に火力発電所用のLNGの価格が飛びぬけて高く、世界でジャパン・プレミアムと言われている現状がある。
なぜ日本の輸入するLNG価格が高いかというと、従来から日本の電力会社は価格引き下げ交渉をまともにしてこなかった。
「価格などいくらでもいいのだ。燃料費が上がればそれをそのまま消費者に転嫁できるのだから、安定供給をしてくれる相手ならどんな価格でもいい」
注)電力会社の体質については、東電を例に分析しておいた。なぜ高額なLNGを輸入しても平気だったかが分かる。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-f255.html
もう一つの原因は福島原発事故以降、電力会社はカタール詣でをして量の確保に狂奔したこともあって、供給者の言い値の価格になってしまった。
現在のLNGは単位当たりの価格はヨーロッパの12ドルに対して、日本は16ドルと3割以上も高額になっている。
注)なおアメリカの価格は4ドルだが、これはLNGにしなくてそのまま天然ガスを利用しているから。天然ガスはマイナス162度で液化する。日本に運ぶ場合はパイプラインがないからこの液化措置がどうしても必要になり、アメリカから購入する場合でも(液化費用を含めると)10ドル〜12ドル程度の価格になる。
現在日本は年間6兆円のLNGを輸入しており、このことが日本の貿易収支を赤字にする大きな原因になっている。
「アメリカのシェールガスを何とか輸入できないものだろうか」それが日本の悲願だ。
アメリカの産出量は年々増加しており、現状は日本の年間使用量の6倍程度の生産が可能になり世界最大の天然ガス産出国になった。
おかげでアメリカでは石油化学工業がこの安価な天然ガスを利用して大復活している。
従来アメリカは天然ガスをアメリカとのFTA(TPP)締結国だけに輸出を許可する方針だったが、あまりに急激な生産量の増大で、日本にも輸出を解禁することにした。
だがアメリカのシェールガス生産者の思惑は、ジャパンプレミアム価格での販売であり、一方日本の輸入商社の思惑はヨーロッパ並みの価格だから、価格面での齟齬は大きい。
注)住友商事はアメリカから安価なLNGを調達するための手段として、テキサスからアメリカ東海岸まで太いパイプラインを引く計画を立てていた。
こうしたパイプラインの建設やLNG液化設備の建設には3〜4年程度かかるので、輸入は早くて2017年ごろになる。
一方もう一つの天然ガス産出国で、天然ガスを武器に世界戦略を練ってきたロシアがシェールガス革命でピンチに陥ってきた。
アメリカが天然ガスの輸入を止め輸出国になると、それまでアメリカにLNGを輸出していたカタールのような湾岸諸国が、このLNGを12ドル程度の安価な価格でヨーロッパに販売し始めた。
従来ユーロッパはほとんどロシアからの天然ガスの輸入に頼っていたので「もうバカ高いロシアの天然ガスを使用しないで済むし、ロシアからの政治的圧力から解放される」とばかり、輸入先を変えたのでロシア経済は大ピンチに陥った。
注)ロシアが天然ガスを武器にウクライナを脅しつけた経緯は以下に記載しておいた。http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/2117-a928.html
プーチン大統領がエネルギー関係閣僚を招集して「このままでは我が国の国家予算を賄うことができない。日本やその他アジアに販路を拡大しろ」とはっぱをかけた。
何しろロシアの国家予算の半分はエネルギー販売企業からの上がりだから昨年は数百億ルーブルの予算不足に陥ってしまった。
注)ロシアのエネルギー関連企業は民間企業ではなく、国策企業でそこの収益は即国家の収益になる。
4月に行われた日露首脳会談は安い天然ガスを調達したい日本と、何とか販路を開拓し高い価格で天然ガスを売りたいロシアとの同床異夢だが、一方でそれまではあり得なかったほどの蜜月関係を演出していた。
「ロシアと日本は良きパートナーじゃないか。経済で結びついて主敵の中国を包囲しよう」
日本とロシアはウラジオストックで日露合弁のLNG会社を設立することになり、これでロシアはサハリンと東シベリアの天然ガスの輸出拠点を確保できそうだ。
注)こちらは伊藤忠商事が食い込んでいたが、単に価格引き下げ交渉だけではだめで、ロシアの工業の近代化を図る手立てを日本とロシア間で行うことで、価格交渉力を持ちたいというのが伊藤忠商事の戦略になっていいる。
このように商社(と資源エネルギー庁)は国家戦略としてアメリカとロシアに標準を合わせて食い込んでいるが、もう一つの戦略は熱エネルギーの効率的使用が可能になるガスタービンの開発だという。
現在のガスタービンの平均的な利用率は40%程度で、あとの60%は無駄に空中にエネルギーを放出している(これが地球温暖化の原因にもなっている)。
これを60%程度まで引き上げるGTCCという技術を日本の三菱重工業とGE+東芝連合軍の間で開発競争が行われていた。
三菱重工業は61%、GEは62%の効率化に成功したというから、今ある電力会社のタービンをすべてGTSSに変えれば、天然ガスを16ドルから12ドルに引き下げをしたのと同じ程度の効果(年間1兆円の燃料費の削減)ができるという。
40年前石油ショックを乗り切ってその後大発展した日本だが、今回の天然ガスショックを再び乗り切ることができるだろうか。
苦しんでいる日本に、確かにチャンスが巡ってきたと言える。アメリカとロシアから安価な天然ガスの輸入が可能になり、一方でGTCCという省エネ技術が浸透すれば、日本を悩ましている燃料費の増大による国家の衰亡から免れることができる。
しばらく前までは原子力を制する者が世界を制すると思われていたが、福島の原発事故以来天然ガスを制する者が世界を制するという状況になっている。
日本の逆襲がぜひ成功してもらいたいものだと心から思っているとともに、この現状をつぶさに報告してくれたNHKに感謝したい。
注)シェールガス革命については以下にまとめて記載してある。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat52342835/index.html
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