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(25.4.30) 文学入門 大岡昇平 「野火」 人間は動物と異なるか?

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 私は普通の日本人に比較して第二次世界大戦の戦闘についてよく知っているはずだったが、今回読書会のテーマ本、大岡昇平氏の「野火」という小説を読んでその無知を知らされた。
私が知っていることと言えば真珠湾ミッドウェイの海戦、それとガダルカナルの激戦ぐらいであり、あとはインパール作戦があるくらいだった。

 だからフィリピンで日本軍とアメリカ軍が終戦間際まで死闘を繰り返していたとは知らなかった。
もっとも本当に戦闘があったのは1944年10月の米軍上陸からの2か月間だけで、そのあとは日本軍は総崩れになり、ただ敗残兵として山中を逃げ惑っていただけに過ぎない。

 アメリカがフィリピン奪還のために、首都マニラのあるルソン島ではなくそれより南方約750km離れたレイテ島に上陸した理由は、ここに日本軍の航空部隊が展開していたからだ。
日本軍の守備隊2万も駐屯していたが、アメリカは制空権を完全に掌握するために10万の兵員レイテ島の守備隊に襲い掛かった。

注)レイテ島にはもともとはアメリカの航空基地があったのを、日本が接収して日本軍の航空隊が使用していた。

 大本営は狼狽しマニラ等から兵員をかき集め約6万4千の増援部隊を送り込んだが、そのほとんどが途中でアメリカ軍の艦載機と潜水艦の餌食になり、このレイテ島をめぐる戦闘での死亡率が94%という大惨劇になってしまった。
4%ということは生きているほうが不思議という数字である。

 大岡昇平氏の小説「野火」は急遽レイテ島に派遣され、すぐさまアメリカ軍によって打ち負かされ山中を逃げ惑った敗残兵田村の事後談という形式をとっている(ほとんど大岡氏本人の経験談ともいえる)。
田村は運よく米軍の捕虜になり日本に帰還したが精神を病み、精神療法の一環として過去の出来事を回想して記載する医療を受けたという筋立てになっている(その回想がこの小説の内容)。

 なぜ田村が精神を病んだかの理由は、敗残兵になりフィリピンゲリラの野火日本兵を発見したことの合図)に追われ続け、食料がなくなり日本兵相互で人肉を食べて生きながらえることになったからである。
通常の状況下では人は人を食べない。しかし本当に食料がなくなりいわば絶対状況に置かれると人食いが始まる。

 たとえば天明の大飢饉のとき東北地方の八戸藩では、死んだ人肉を食べていたという記録がある。
最近でいえば中国で文化大革命時に殺した相手の人肉を食べたり、肥やしにしていたと日下公人氏が述べている。

注)天明の大飢饉で人肉を食べたことは以下の記事で記載しておいた。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-3d03.html

 日本軍は南方戦線で制空権制海権をアメリカ軍に奪われた後は、まったく補給が途絶えてしまった。ほとんどの補給船がアメリカ潜水艦の餌食になって撃沈されたからだ。
したがって島に残された日本兵は食料を現地調達する以外に方法はなくなったが、当然のことに現地人は戦場から逃げ出して耕作を放棄する。
時間がたてばたつほど食料は乏しくなり、兵士は死んでいくがこの死んだ兵士を食べることで残された兵士はかろうじて生命をつないでいた。

 さらに状況が切迫すると死肉がなくなり、今度は敗残兵を見つけると猿撃ちと称した人間狩りが始まる。
小説では田村はたまたま一緒に逃げた兵士が猿撃ちをしており、その猿撃ちで得た人肉を分けてもらうことで生き延びる。
最後は田村を含め共食い状態になり、田村が猿撃ちをしていた兵士を殺すことで狂人になってしまうという筋立てだ。

 大岡氏は生き延びて日本に生還したのだからここに書かれたことは本人の実経験に近いと思われるが、それを生のままで記載はできないので一種の狂人日記として小説にしたのだろう。
絶対状況下では人は人を食べてしまうというテーマは重すぎて、今のような飽食の時代にはそぐわないが、しかし人間の一面としてこうした事実があることはやはり知っておくべきだと思う。

 私は日本軍が死肉を食べたということまでは知っていたが、生きている人間さえも猿撃ちと称して打ち殺し、その肉を食べていたとまでは知らなかった。
野火」は戦後すぐ(1951年)に発表された小説で、当時非常な衝撃を与えた小説だが、今では読まれることの少ない小説だ。
だが人間というものを知るためには読んでおくべき小説だといえる。

注)NHKが放送したプラネットアースという番組でチンパンジーの狩り(他の集団のチンパンジーを襲って食べる)のシーンがあった。
この状況をナレーターが「身の毛もよだつような光景が繰り広げられました」と言っていたが、私はこの時「このナレーションを記載した人は人間の本性をしらないな」と思ったものだ。
プラネットアースの記事は以下参照
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/22813-no-2953.html


 

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