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(24.12.21) 文学入門 高橋和巳 「堕落」

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 今回の読書会のテーマ本は高橋和巳氏の「堕落」である。高橋和巳氏と言えばいわゆる全共闘時代の人には懐かしい小説家だ。
私が学生だった頃、高橋氏は最も人気のあった小説家で、当時左翼学生が必ず読んでいた朝日ジャーナルに氏の代表作になった「邪宗門」を連載していた。
いまから40年以上も前の話だ。

 私は20才台の10年間に高橋氏の小説や評論をほぼすべて読んだが、このようにその人の全作品を読んだのは高橋氏井上靖氏に限られる。
私は今も昔も氏の作品は好きだが、しかし現在ではほぼ忘れられた小説家と言ってよく本屋に行っても文庫本すら置いてない。

 氏が39歳の若さで癌で死去したのは1971年のことだったが、当時最盛期を迎えていた全共闘運動はその後急速に下火になり、日本の高度成長とともに忘れ去られていった。
そして高橋氏も同時に忘れ去られたのだが、その最大の原因は中国の文化大革命に肩入れしすぎたからだと私は思っている。

 当時の氏の評論を読むと文化大革命精神革命と位置づけ、「単なる経済的・政治的革命だけでは革命は成就できず、次に精神革命を行うことによって初めて理想的な社会が生まれる」と何度も述べている。
しかし毛沢東が起こした文化大革命は中国共産党内部の権力闘争にすぎず、走資派といわれた実力者をガキを煽って権力の座から引きづり下ろした一大闘争にすぎなかった。

 結果として1000万人に及ぶ中国人が走資派と言うレッテルを貼られて殺害されたが、これが高橋氏が望んでいた精神革命であったはずはない。
高橋氏は純粋に精神革命を望み文化大革命に夢を託したが、実際はそんなものはこの地球上のどこにもなかったと言うことに過ぎない。

 だから高橋氏が文化大革命の帰結を見ずに死去したのはある意味で幸せだったと言える。もし帰結を見ていたら純粋すぎる高橋氏の精神は崩壊したはずだ。
崩壊と言えば高橋氏の小説は何かとても暗く、主人公は何らかの意味で精神的に崩壊していくのだが、今回のテーマ本の「堕落」もその例に漏れない。

 この小説の主人公は元右翼運動の活動家青木隆造で、満州国の建設に携わり、その後満蒙開拓団を組織して敗戦を向かえ、戦後アメリカ兵と日本人の間で生まれ捨てられた二世の子供たちを兼愛園という施設で育てていくことで余生を過ごそうとした政治的人間である。

 本人は満州国が滅んだことで思想的に敗北し、二度と社会の前面に出ないと決心していたのだが、思いがけず兼愛園の活動が新聞社によって顕彰され、副賞200万円を得たことから「堕落」の生活が始まる。
兼愛園の事務職員の女性と関係を持ち、そして副賞の200万円を持って兼愛園から出奔し、そして場末の安宿に泊まり歩き安酒を飲む生活を繰り返して、最後に青木隆造の金を狙ったチンピラと諍いになって、このチンピラを殺害してしまう。
 
 高橋氏はこの小説で何をいいたかったのだろうか。
一度政治的に挫折したものは再び挫折するものだと言うことだろうか。
あるいはかつて満州に純粋に王道楽土を築こうとした右翼がいたと言うことだろうか。
そして満州国が自身の夢とは反対の政治的野望へと転化したことに失望し、満蒙開拓義勇団に最後の夢をかけながらそれすらも失敗した右翼思想家の精神の荒廃を扱おうとしたのだろうか。

 かつて私の左翼の友達が「極右と極左の精神構造は同じだ」と言っていたことを思い出す。
高橋氏は全共闘運動と言う極左運動を支持しながら、同じ精神的土壌を持った極右の思想家にシンパシーを持っていたようだ。

 この小説では今ではほとんど知られなくなった当時の満州国の実質的な権力者たちが登場する。
元関東軍参謀や満州国の主計課長(実質的な国家予算の権限者)や満鉄調査部員(実質的なスパイ)、関東軍の嘱託(いわゆる満州浪人)であり青木隆造もそのうちの一人だ。

 この小説を読むと当時の右翼の思弁のありようが良く分かるのだが、そうしたことに興味を持つのは現在では歴史家以外にはほとんどいないだろう。
大川周明といわれても「その人誰??」と言うのが実際なのだからこの小説の今日的意義は小さいが、しかしそれでも満州国と言う幻の王国が13年間にわたって存続し、それを支えていた人々がいたことは確かだ。
私はこの小説を読んで初めて右翼思想家を理解したが、やはり読者層の限られた小説と言うことは言えそうだ。

なお、私は前に「高橋和巳の残した遺産」と言う記事を書いているのでそちらも参考にしてください。
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/21418-fb99.html

また読書会関連の記事は以下にまとめてあります。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat43898465/index.html






 

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