(24.9.12) JALの再上場 売り出し価格3790円はfacebookの二の舞
10年1月に会社再生法を申請して倒産したJALが、再上場されると言う。
企業再生支援機構から3500億の出資を受け、さらに金融団から5200億円の債権の棒引きを受けたことですっかり財務状況が好転し、11年3期は1884億円、12年3期は2049億円の連結営業利益を上げるほどの超優良会社に変身してしまった。
最もJALも懸命に努力し再建を託された稲盛会長は手弁当で奮闘努力をしていたし、不採算航空路の閉鎖(国際線約4割、国内線約3割)をしたり、グループの従業員の3分の1を削減したりしてしたのだから、再建は企業努力の賜物ともいえる。
倒産からたった3年弱で再上場にこぎつけたのだから実に立派なものだ。
だがそれにしても再上場に当たっての売り出し価格3790円はいかにも高すぎるのではないか。こんなに高くなる理由が私には分からない。
倒産前の数年間、JALの株価は300円前後(倒産時は1円)を上下していたのだからそれに比べると12倍も価格が上昇しての再上場になる。
売り出しの幹事会社の大和証券は売り出し価格の仮条件を3500円から3790円の幅に設定したが、予約が3倍程度になっているのに気をよくして3790円で売り出すことに決定した。
何か最近のfacebookの上場と似ていて、こちらは売り出し価格を38ドル(当初の売り出し予定価格の幅は28ドルから35ドルの間だった)で売却したが、上場後日を追って価格が低迷し今は20ドルを切っているので購入者はたちまちのうちに資産を半分すってしまった。
JALとANAを比較してみよう。JALは3790円、一方ANAは200円程度だが本当にこんなに株価に大差が出るような状況ではない。
12年3月期のJALとANAの財務状況は以下の通りだ。
売上高 JAL 1.2兆円 ANA 1.4兆円
営業利益 2049億円 970億円
総資産 1兆円 2.3兆円
有利子負債 2084億円 9036億円
株価 3790円 200円
確かに有利子負債は棒引きでANAより7000億円も少なく(利回りが3%と仮定すると約210億円負担が軽い)、不良資産の売却も進んでいるがそれにしてもJALの売り出し価格がANAの19倍とはべらぼうだ。
それに客観的に見てメガキャリアの将来はかなり厳しい。超優良といわれているシンガポール航空でさえANA程度の収益しか上げられないが、JALが高収益なのは稲盛会長ががんばって徹底的にコスト削減に奔走したからだ。
しかし今収益が好転し再上場に伴い再びかつての黒い頭のねずみが動き出している。
「JALはこんなに高収益になったのだから、閉鎖した国内路線の再開をしてもいいのではないか」
「ぜひこの子を採用してくれ。国交省の枠があるだろう」
「賃上げをここまで我慢したのだからこれからは給与アップだ」等々。
JALは支援機構から3500億円の出資をしてもらい、金融団の債権を5200億円踏み倒すことで身軽になって再建できた。
また欠損金1兆円は今後9年間にわたって利益と相殺できるから法人税の支払いもない。
すべて自助努力で達成したと思うと落とし穴に落ちる。
債権機構は株式を全額売却し投入した資金3500億円の約倍の回収(約6500億円)があることは政府としては願ったりかなったりだろう。
何か政府は眼いっぱい株価を吊り上げてアコギに稼いでいるように見える。
だが、ANAの株価と比較してみても、また今後日本市場を席巻するLCCの実態を見ても、利益集団が再びJALを食い物にしようと虎視眈々と狙っている実情からも、3790円の売り出し価格は高すぎる。
私はfacebookと同様にたちまちのうちに半額程度になるのではなかろうかと思っている。
なおJALの倒産、およびその再建については以下にまとめてあります。
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/jal/index.html
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コメント
JALとANAの株価(売り出し価格)を単純比較してもあまり意味はなく、EBITDAなりEBITなりに対する企業価値のマルチプル等を見るべきではないでしょうか?
(山崎)確かに私の分析は「EBITDAなりEBITなりに対する企業価値のマルチプル」なものではなく、航空業界の推移から判断しているものです。
売り出し日は19日ですので、結果はすぐに判明しますのでその段階で再び記事を記載いたします。
投稿: X | 2012年9月13日 (木) 04時48分