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(24.8.1) 文学入門 辺見庸 「瓦礫の中から言葉を」 わたしの<死者>へ

 

  今回の読書会のテーマ本は辺見庸氏の「瓦礫の中から言葉を」で、これを選択したのは読書会の主催者河村さんである。
私はいつものように辺見庸氏もこの本もまったく知らなかったが、読んでみて「かなり無理のある評論だな」と思わずにはいられなかった。

 この本のテーマは昨年の3月11日に東北地方の太平洋岸を襲った大地震大津波、そして福島原発のメルトダウンに対し、「文学者としての適切な表現がなされていない、あるのは数字の羅列に過ぎない」と言う強い認識の基に「瓦礫の中から言葉を」見つけ出そうとした試みである。
実際東日本大震災の災厄に対し、辺見氏は「眼の海」と言う詩集を上梓して世に問うたが、私の正直な印象は「いかなる文学も事実の重さにはかなわない」と言う思いを持った。

 東日本大震災死者約2万人、建物の全半壊は約40万世帯、さらに原子力発電所のメルトダウンという大災害だったが、それを私たちはほぼリアルタイムで確認していた。
地震発生後の大津波も福島第一原発のメルトダウンの大爆発も私たちはテレビ画面で釘付けになるようにして見ていたのであり、しかも何日間にわたってその映像を繰り返し脳裏に刻まされた。

 また私自身は大地震を八王子の浅川の土手をJOGしている時に遭遇したが、身体をどのように制御しようとしても身体がゆれ続けたので、「とうとう頭の血管が切れたのか」と思ったほどだ。
今回の東日本大震災については東北地方と関東地方の広い範囲にわたってそこに住んでいた住民が実体験をしたので、それぞれの人々がその災厄を身をもって経験している。

 そうした大災厄はもはや文学の領域を通り越していて、そもそも「だれも言葉をもっていない」領域に入り込んでいる。
だから辺見氏がいくらこの大災害を詳述する「表現の不自由」さを嘆き、まるで「下からの統制」じゃないかと憤っても無駄なことなのだ。

 さらに辺見氏が「すべてのことは起こりうる」と言う一章を設けて、「将来東日本大震災を凌駕する大災害がありうる」と予言しても、今の日本人にとっては今回の大地震と津波、および福島第一原発の事故処理に手一杯であり、確かに起こるであろう数百年、数千年後の大災厄に思いをはすほどの精神的余裕はない。

 辺見氏の認識ではこうした大災害に遭遇すると日本人は「心に戒厳令」を引いて適切な文学的表現をしないという。
だが辺見氏にはもうしわけないが文学はすべての事象の最上位にあるわけでなく、政治現象や経済現象や科学現象や実生活と同様に、単に人間活動の一側面に過ぎない。
いわばあまりにすさまじい実態(戦争や大地震)の表現形式としては文学はそもそも無力なのだ。

 辺見氏の脳裏には堀田善衛氏が描いた「方丈記私記」を凌駕しようとの文学者の野心のようなものを感ずる。
しかし「方丈記私記」は東京大空襲に遭遇した筆者が、その約1000年前鴨長明が経験した大火災や竜巻や飢饉を大空襲と同様の経験とみなして鴨長明の人生観を分析した書物である。
この本は堀田善衛氏が経験した東京大空襲を直接述べたものでない。

 文学者にとっては「今そこにある危機」を直接文学的表現で描くのは無理で、1000年前のインテリの言葉で代替するか、あるいは五味川 純平氏が「人間の條件で描いたように梶上等兵と言う個人の目から戦争の悲惨さを描くより手はないはずだ。
繰り返すが辺見氏はこうした大災害をトータルとして述べる言葉がないと嘆いているが、それは文学の範疇を越えているからであり、別に「心に戒厳令」を敷いているわけではないと私は思っている。

なお、これまでに実施してきた読書会の感想文は以下にまとめてあります。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat43898465/index.html

http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/cat31264874/index.html

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