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(24.7.3) NHK  「日本のがん医療を問う」 世界最先端の医療大国になるために

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 私は常日頃から日本が21世紀に生き残る戦略は医療大国になって世界中の患者を引き受けることだと主張してきたが、今回NHKスペシャル「日本のがん医療を問う」を見て、まだまだ道半ばだなと言う感を強く持った。

 日本では今から5年前に「がん対策基本法」が制定され、日本全体にがんの拠点病院を整備して「日本のどこにおいても世界で標準とされているがん治療をできる」ことを目標とした。
そして5年後の現在397箇所の拠点病院は設定されたものの中身はまだまだと言う状況のようだ。

注)5年前には拠点病院がない県が3県あった。

 日本は世界にまれに見る高齢化社会で老人が圧倒的に多く、その分がん患者が多い。年間70万人が発病し、死亡原因の二人に一人ががんだという。
いわば世界に冠たるがん大国なのでその対策が問われてきて、がん対策基本法もその対策の一環であるが、せっかく設定された拠点病院ごとの格差が大きいのが問題だと言う。

 拠点病院では内科・外科・放射線技師・抗がん剤担当医等のチーム医療がなされることになっているが、特に抗がん剤担当医が不足していて多くの地方にある拠点病院がチーム医療ができていない。
たとえば和歌山県には6つの拠点病院があるが、抗がん剤の専門医がいるのは1箇所だけで、他の病院には専門医がいない。

 実は専門医の育成は時間がかかり年間200人程度しか育成できないので、現在まで1000名程度の育成が終ったが、本当に必要な人数は約2000名だという。
現状では目標までは5年程度の時間がかかると番組に出ていた国立がん研究センター堀田教授が言っていた。

 また新潟県の事例では拠点病院といってもレベル差がおおきく、国立がんセンター新潟に難しいがん患者が殺到していた。
他の拠点病院では満足できる説明や治療を受けられなかったのがその理由だが、医師のレベル差が大きく、標準的な高度の治療と言うわけには行かないようだ。

 しかしこのあたりになると、私でも通常近くの病院を選ぶ場合に、知人から知識を得たりインターネットで検索して病院の評判を確認してからかかっている。
ただしこれは手間隙かかる方法で、自らチェックをしなくて済む様に「がん対策基本法」では医療登録制度を設けすべての拠点病院の治療結果国立がん研究センターに集めて分析し公表するようにしていた。
この病院の○○がんの治癒率は高く優秀な病院だ」とか「この病院では標準的な治療をしていない」等の情報を与えるためだが、残念ながら登録情報に不足があって治癒率については正確な情報が得られていないのだそうだ。

 なぜ正確な治癒率が分からないかと言うと、拠点病院の治療結果は分かるのだが、患者が病院を変えてしまった場合は(抗がん剤の治療は近くの病院で行う等)データが得られなくなり、また最も重要な術後生存率の情報が死亡時期が不明のために分からないのだと言う。
この死亡を確認するためには住民票の確認が必要になるが個人情報保護の観点から情報を地方自治体が出してくれないのだそうだ。
通常手術後5年間生存すればその手術は成功とみなされるが、せっかく手術や抗がん剤治療をしてもそれが成功したのか失敗したのか分からないと言う。

注)あまりに個人情報保護法の取り扱いが硬直的なため、厚生労働省では法律を改正して術後死亡率を自治体から教えてもらう変更を検討していた。

 また一般的な胃がんや大腸がんはともかく、小児がんのような年間発生件数が2500人程度の症例が少ないがんについては、すべての拠点病院で対応するのではなく10箇所程度に集約してそこで集中的に小児がん患者を見るように今回見直しをすると言う。
そうしないと執刀医がまったく小児がんを知らずに専門書を確認しながら手術をすることになり、生き残る命も生きながらえることができなくなるからだと言う。

 私がこの番組を見て最も残念に思ったのは、滑膜肉腫と言う特殊ながんに対する抗がん剤の開発が日本では不可能でアメリカで臨床試験をしているとだった。
この抗がん剤を開発したのは東大の中村教授だが、厚生労働省に臨床試験の申請と補助を求めたところ、臨床例が少ないからとの理由で却下されてしまった。

 中村教授は仕方なしにアメリカのシカゴ大学に移り、そこでアメリカの国立がん研究所の支援で臨床試験を行っていた。
私はまったく知らなかったが日本では臨床試験を行うことが非常に難しいらしい。
新薬の研究については文部科学省と経済産業省が後押しをしてくれるのだが、臨床試験とその結果の審査・承認は厚生労働省が行い、研究から開発にいたる流れが途切れていて厚生労働省が待ったをかけていることが多いようだ。

注)臨床試験には多額の費用がかかるため、厚生労働省は多くの患者が見込まれる新薬にしか臨床試験を認めない。せっかく文部科学省が後押しして実施した画期的な研究も日の目を見ることがない。

 厚生労働省主体の開発でないため、他の省の成果になる新薬承認には積極性がなく、それよりも副作用等で訴えられないように承認には消極的になっている。
それでも「がん対策基本法」ができたおかげでかつては10年かかっていた新薬承認が今では1年2ヶ月に短縮したのだから相応の成果はあがっている。

 それにしても残念なことだ。日本人が開発し、また日本国内にその臨床試験に応じたい患者がいるのに厚生労働省は予算措置との関連で待ったをかける。
アメリカでは国立がん研究所が研究から承認まで一貫して権限を持っており、臨床試験の予算規模は800億円だと言う。
これはアメリカが医療産業を戦略的に支援しているからに他ならない。

 何度も言うが日本の21世紀の成長産業は医療・介護以外には考えられない。何しろ老人大国で患者数は世界最高にいてしかも次々に病気になるのだからこれこそが最高の成長産業だ。
それなのに日本には医療産業を国家戦略として育成する意思が弱く、各省庁が縄張り争いをして臨床試験一つをとってもアメリカに遅れているのはなんとも残念なことだとため息が出た。

なお私が常日頃から言っている医療・介護産業を成長産業の中心にすげるべきだとの主張は以下の記事を参照してください。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-03c8.html

 

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