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(24.7.17) JPモルガン・チェースのディリバティブ取引の大失敗と金融規制問題

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 やはりボルガー・ルールは必要なのだなとしみじみ思ってしまった。
ボルガー・ルールとは元FRB議長のポール・ボルガー氏が提案しているルールで「なんでもありのアメリカ金融界を規制するルール」のことである。

 ボルガー氏は「多くの人々から預金を集めて商業銀行業務を行っている金融機関は自己勘定取引やヘッジファンドへの投資をすべきでない」と主張した。
自己勘定取引とは金融機関が集めた預金をもとでに自身で証券市場でディーリング業務を行うことであり、ヘッジファンドへの投資は自分のダミー会社を作って好き勝手な金融取引を行う行為である。

 いづれもアメリカの大手金融機関が長年にわたって行ってきた商業慣行で、これがリーマン・ショックを引き起こしたと言うのがボルガー氏の認識だった。
しかしこの主張はアメリカ共和党とそれを支持するウォール街の大反対にあって未だに日の目を見ていない。
だがウォール街の急先鋒だったJPモルガン・チェースディリバティブ取引で大失敗をしたので風向きが変わるかも知れない。

 JPモルガン・チェースはリーマン・ショック時にほとんど唯一と言って良いほどの軽微な損失で切り抜け「さすがJPモルガン・チェースのリスク管理は完璧だ」と賞賛されてきた金融機関である。
そのためJPモルガン・チェースはますます自信を深め「自由市場と自主管理こそが金融市場の発展に寄与し、ボルガー・ルールはこの金融市場を窒息させるだけだ」と舞い上がっていた。

 そのJPモルガン・チェースが信じられないような大失敗をしでかした。
CIO(最高投資戦略室)と言われる部門で2期にわたり損失が発生しさらに損失が膨らみそうになっている。

注)12年1~3期 ▲17億ドル  12年4~6期 ▲44億ドル、NYタイムズは全体で90億ドル(7200億円)の損失になると予測している。

 CIOとは聞きなれない言葉だが、ボルガー氏が反対している自己勘定取引部門の一部だと思えばいい。
CIOロンドンに本拠を置いて「合成クレジット・ポートフォリオ」と言う取引を行っていた。
名前を聞いても何の取引かさっぱり分からないがCDS(クレディット・デフォルト・スワップ)の取引を大々的に行っていたようだ。
CDSとは保障契約の一種で、融資者の返済が危ぶまれると判断したとき、より信用がある企業に保障をしてもらう契約である。

注)たとえばA銀行がB社に5%の利回りで融資をしていて、この会社からの返済を危ぶんだとする。その場合C銀行に2%の利回りで保障をしてもらう契約をするとA銀行はB社が倒産してもC銀行から元金の回収ができる。

 CDSは本来このような保障契約だが(JPモルガン・チェースの融資金に対する保障契約であれば何の問題もないが)、CIOでは融資金とはまったく関係なくCDSの大々的な取引を行ってきた。
この取引でJPモルガン・チェースは2009年 43億ドル、2010年 36億ドル、2011年 13億ドルと荒稼ぎを行ってきた
いわばJPモルガン・チェースの稼ぎ頭で、そのあまりのすさまじい市場支配力によりロンドンではCIOを「ロンドンの鯨」(CDSをがぶ飲みすると言う意味)と言って恐れていたものだ。

 取引の詳細は不明だが(JPモルガン・チェースの最高経営責任者でもよく分からないらしい)、「ロンドンの鯨」はもっぱらCDSの先物取引で利益を上げていたらしい。CDSは保障だから保障先の業績が悪化すれば値が上がり、反対に業績がよくなれば値がさがる。
前にNHKで放送していたギリシャ国債のCDSを扱うヘッジファンドは、CDSが安いときに大量に仕込んでギリシャ危機が発生するとそのCDSを売り抜けていた。

注)ヘッジファンドの事例は「NHKスペシャル ユーロ危機とヘッジファンドのCDS戦略 日本も狙われている」を参照

 2011年末まではこうして「ロンドンの鯨」はわが世の春を謳歌していたが、11年末にJPモルガン・チェースの方針が変わった
どうも当局の金融規制の方針は強固だ。ボルガー・ルールも導入されるかもしれない。ここいらで将来を見越して自己勘定取引を縮小しよう

 ロンドンにCDS取引の縮小を指示したが、「ロンドンの鯨」はこれをまったく無視した。
本社のお偉方は気が小さい。良いからどんどん取引を行
信じられないことに本社の通達が出てから3ヵ月後にはCDSの持高は3倍に膨れ上がってしまった

注)正確に言うと将来価格が上がると予想されるCDSと価格が下がると予想されるCDSをバランスして購入してリスクを軽減しようとした。このためCDSの持高が急激に上昇した。

 しかし所詮は予測に過ぎない。この予測がはずれると持高が多い分損失は一気に膨らむ。
ここにきて欧州金融危機の予測に失敗し実際にそうなってしまった。
今回の損失は最大でも7000億円程度だからJPモルガン・チェースの経営に支障が出るほどのものではない。
しかしこの銀行が従来から言っていた自慢のリスク管理は実際は張子の虎だったことが判明し「自由市場と自主管理こそが金融市場の発展に必ずしも寄与しないこと」が明らかになった。

なお、世界の金融機関の問題は以下にまとめてあります。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat50073508/index.html

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