« (24.7.1)  クローズアップ現代 サイバー攻撃でインフラが乗っ取られている。 | トップページ | (24.7.3) NHK  「日本のがん医療を問う」 世界最先端の医療大国になるために »

(24.7.1) NHK「首都圏ネットワーク」の老人対策のミスリード 最も貧しく孤独なのは老人か?

21_843 

 私はNHKの愛好者でNHK以外のチャネルはスポーツか映画以外は見ないのだが、そんなNHKフリークの私でも時に違和感を感ずる番組がある。
今回「首都圏ネットワーク」で放映された「あたらしい老後と死は? 無縁社会の中で」は明らかにNHKのミスリードではないかと思われた。

 日本全体が世界最速の高齢化社会に突入し、一人暮らしの65歳以上の老人がこの20年間で3倍、約500万人に達し、その介護のあり方が問われていると言う。
日本の介護保険制度は家族の介護を基本としてそれを補助する仕組みだが、そもそも家族が存在しない年寄りが増大してそのケアを家族でなくNPO法人が担うようになって来ていた。

 コメンテイターで出演していた経済評論家の内橋克人氏は「家族介護が崩壊した以上、北欧型のデイセンター、ケアセンター、介護センターの仕組みを早急に整備しなければならない」と強く主張していた。
だが、日本にそのように更なる老人対策を強化する余裕があるのだろうか。

 日本の財政は世界最悪で国家予算の半分は国債でまかなっており、ようやく野田内閣が消費税の増税に取り組んでいる状態だ。
EUではギリシャ、キプロス、アイルランド、ポルトガルと言った国が実質倒産し今スペインイタリアが倒産しようとしている。
アメリカでは地方公共団体の倒産が相次いでいるが、このように次々に国や自治体の倒産している時に、世界最悪の財政状況の日本で一層の老人保護対策に取り組むことが緊急の政治目標だろうか。

 さらに言うと日本の老人は層としては世界で最も裕福で、約1500兆円の個人資産のほとんどは老人が保有している。
内橋克人氏も言っていたが「世界の中で資産1億円以上の金持ちの6分の1は日本人である」のが実態で、なぜそうなったのかは現在の老人が高度成長期の恩恵を一身に受けているからだ。

 当時は株式や土地を持っていればそれだけで裕福になれた時代で、また企業も終身雇用を守っていたので引退した後は厚生年金企業年金で十分生活できている。
もちろんどの時代にも落ちこぼれはいるから、番組で紹介されていたように生活保護費をかてに山谷の通称どや街で暮らしている人はいる。
しかしそうした人も14万円相当生活保護費を得ているのであって、これはコンビニ等で働いている若者の給与とほぼ同じだ。

 私がこの番組に対し最も違和感を持つのは、老人はすべて貧しく不幸で孤独だとの前提に立って老人問題を扱おうとするからで、実際は裕福で海外旅行や登山を楽しみ多くの友達と食事会をしている老人のほうが多い。
私の周りの老人を見てもそうした老人のほうが多く、なぜか貧しいのは私だけではないかと思うほどだ。

 考えても見てほしい。なぜこれほどおれおれ詐欺が蔓延し、いとも簡単に老人が大金を盗まれるのか。なぜ山で遭難する人の割合は老人が圧倒的なのか。
金がなければそもそもおれおれ詐欺の餌食になることはないし、登山者が老人ばかりになっているから遭難が多発しているに過ぎない。

 一方この番組を見て私が感心したのはNPO法人のがんばりだ。
病院から追い出され(現在は医療行為が完了すれば退院を迫られ、かつてのような養護老人ホーム的な扱いをしてもらえない)、一方養護老人ホームに入れない年寄りを対象に、あるNPO法人が首都圏で130箇所の施設を運営し、4000名あまりの老人の面倒を見ていた。
なんとすばらしい取り組みだ」私は感心したが、番組を見たコメンテーターの一人の宮本さんは、「食事が老人向きでない(いわゆるコンビニ弁当)」と疑問を呈していた。

 確かにそうした手の届くような対応ではなかったが、一方で養護老人ホームに入れない老人をNPO法人が支えているその努力のほうがすばらしく、食事が老人向きでないことぐらいは我慢の範囲と私には思われる。
またNPO法人が身寄りのない老人の身元引受までして病院から退院させていたが、親兄弟や親戚のない老人は退院するにも身元引受が必要らしい。

 行政と崩壊した家族の谷間をNPO法人が埋めているわけで、日本的な取り組みとして(行政の対応は費用がかかって実質的に不可能だから)こうしたNPO法人を育成し支えていくことが、日本の老人対策ではないかと私には思われた。

 繰り返すが現在の日本の最重要課題は豊かな老人の更なる老人対策ではない。最も貧しいのは老人ではなく若者であり、若者が就職にもつけずコンビニ等でバイトをしながら細々と暮らし、子供を作ることもできない現状のほうがもっと緊急の課題だ。
貧しく孤独な老人がいることも確かだが、そうした老人はNPO法人の力を借りてささえ、一方国や地方自治体の資源は若者対策に投入すべきだと言うのが、私がこの番組を見た率直な感想だ。
そうした意味でこの「首都圏ネットワーク」の番組はミスリードだと思われた。

注)なお日本の生活保護政策についてもかなりな問題があるがその問題点については以下参照
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/231214.html

|

« (24.7.1)  クローズアップ現代 サイバー攻撃でインフラが乗っ取られている。 | トップページ | (24.7.3) NHK  「日本のがん医療を問う」 世界最先端の医療大国になるために »

評論 日本の政治 生活保護政策」カテゴリの記事

コメント

老人が貧乏で不幸だという前提は、山崎さんの指摘の通り間違っていると思います。
ただ孤独な老人が多いのは事実ですね。
近所の訪問介護している女性の話ですが、老人宅に訪問して花札して遊んで帰ってくるだけ、というようなパターンが多いようです。
これでは、いくらお金があっても足りませんよね。

いつか地元のボランティアセンターの人が、数あるボランティアの中でも最近急増しているのは、訪問して囲碁や将棋の相手をしたり、世間話をするだけのボランティアだと話してくれました。
その時は、ふーーん、そんなものか、と思っただけでしたが、そんなことで、この国の財政負担を軽減できるなら、自分もボランティア登録してみようか、などと思いつきました。

(山崎)歳をとると孤独になりがちなのは、友達を求める積極性がなくなるのと孤独でも生きられるすべを身に着けているからでしょう。私は毎日四季の道の清掃をしているときに、すれ違う人に挨拶をしますが、老人(私を含めて)はすぐには対応してくれず時間がたつにつれて心を開くようです。少し大変ですが是非ボランティア登録をしてみてください。

投稿: 三太郎 | 2012年7月 2日 (月) 07時55分

いつも拝読させていただき有難うございます。勉強になる記事が多く、新聞等で見られない考え方の一部を大変参考にして、日本を見る一つの座標軸として考えています。

海外での生活で、今回の思い当たる節があり、現地の事情を一部参考にされたらと思っています。1982年にシンガポールの駐在員として赴任、以来途中で会社をスピンアウト、現地タイ、ベトナムでの会社経営をし、現在に至ります。

以前はバンコックのカオサン通りやサイゴンのハングーラオ通りと言えば、若いバックパッカーの集まる、安宿、安い航空チケットの販売地として有名でした。当時はそういったところに日本の若者が多く、ある意味では日本村的な集合地でもありました。現在はそういった場所には韓国の若者やヨーロッパ人で、昔のように日本人を見ることは昔と比べてかなり少なく、日本人と言えばメイン通りに年寄の旅行者を見るばかりです。貧乏旅行さえ出来ない日本の若者たちと、金持ちの老人旅行者の増加が、非常にアンバランスに思えてきます。

青年は荒野を目指すと言った、若い人達が減っている現状は何か日本の将来がおかしいと思えてなりません。

これからも記事を楽しみにしています。

(山崎)貴重なコメントをありがとうございます。昔私もタイでバックパッカーをしていましたので、現在若者が貧乏旅行もしなくなったのかと感慨深いものがあります。
また貴重なコメントをお願いいたします。

投稿: フーさん | 2012年7月 3日 (火) 17時20分

この記事へのコメントは終了しました。

« (24.7.1)  クローズアップ現代 サイバー攻撃でインフラが乗っ取られている。 | トップページ | (24.7.3) NHK  「日本のがん医療を問う」 世界最先端の医療大国になるために »