(23.12.29) 福島第一原発政府事故調査委員会の中間報告 政府のお粗末な対応
福島第一原発の政府事故調査委員会の中間報告を見て、やはりもっとも問題だったのは政府官邸の対応だったとしみじみ思ってしまった。
官邸ではすぐに官邸対策室を設置したのだが、本来の対策室が設置される地下ではその時唯一の通信手段になっていた携帯電話がつながらず、5階に菅総理をはじめとする閣僚、東電の役員、それに原子力安全保安院のトップが集まっていたという。
注)地下に集まるのはそこに防御体制を完璧に施した安全な場所があるためで、特に外国からの攻撃やテロ攻撃に備える場所。
しかしこの5階でも現地からの情報がほとんど入らず、我々一般庶民と同じようにテレビを見て事故の実態を把握していたようだ。
この情勢下で菅総理はいつものヒステリーを起こし「このままでは再臨界になる、真水による冷却水の注入はどうするんだ」と怒鳴り散らしていたという。
あまりの剣幕に恐れをなした東電幹部が、その時行っていた海水注入は止めて真水(この場合は再臨界はないと思われていた)の注入をするように東電本部に報告し、本部は福島第一原発の吉田所長に電話会議で「冷却水注入の停止」の指示を出した。
この段階で問題の所在を一番正確に把握していたのは吉田所長だったようだ。
「本部の馬鹿な指示など無視して海水の注入を続けろ。本部には中止したように芝居をする」と言って電話会議で「冷却水の注入停止」の指示をだしている芝居を打った。
このときの芝居に騙された東電本部が後で怒り「吉田所長を処分する」(菅総理に冷却水注入は停止したと報告していたため報告と実態が異なった)といきまいていたが、実際はこの吉田所長の機転でより悲劇的な大爆発が 起こらなかったのだという。
東電本部は振り上げた拳のおろしどころに苦慮したが、当の菅総理が「私が東電に指示するようなことはしていない(ただヒステリーを起こしていただけだ)」と釈明したため、吉田所長の処分は沙汰やみになった。
菅総理も相当なものだが、それに輪をかけてひどかったのが原子力安全保安院の対応だったようだ。ここは一言で言えば「何の役にもたたず、ただ復旧作業の邪魔をしていただけ」と言うのが実態だった。
普段から原子力施設をモニターする仕組みを持っておらず、それまで東電からの報告書を見て「うん、なかなか安全対策をしてるじゃないか、報告はもういいから飲みに行こう」なんて対応をしていたので危機が発生して馬脚を表わした。
保安院も菅総理のヒステリーに恐れをなして「早く報告を上げろ」と怒鳴りまくっていたらしく、これでは現場は浮かばれない。
また緊急時の迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)がまったく役だたずだったことも明確になった。こんな時こそ役にたってほしいのだが、官邸に所管の文部科学省の責任者がいなかったこともあって、こうしたシステムがあること自体、官邸対策室は知らなかったらしい。
当の文部科学省は「指示がないので公表しなかった」と言うことのようで、このあたりはなんとも役所らしい。
「システムは作ったぞ、後は知らん、誰かが使うのだろう・・・・」
今回の中間報告を見て私が思ったのは、危機対応と言うものは軍隊の訓練と同じで常時災害のシミュレーションを繰り返して問題点の改善を図っていかなければいざと言うときには役立たないということだ。
菅総理や閣僚に常時危機対応のシミュレーションを付き合わせることは事実上不可能だから、一種の参謀本部のようなものをおいて訓練することが必要だ。
しかし日本では危機対応と言うと「そんな危機があるのか」なんて議論にすぐになってしまい、そちらの釈明に追われてまともな訓練ができないのが実態だ。
危機の発生はあくまでも確率の問題だが、日本では確率の問題と意識されず「事故があるかないか」の二者択一になってしまう。
「事故が発生するのか、しないのか聞いているのだ」
「その確率はとても低いと思います」
「じゃ、発生するんじゃないか、では駄目だ」
そのため担当者は本当はある一定の確率で発生する事故を「絶対に事故は発生しない」と釈明し、事故が起こらない以上は事故対策はしなくていいことになってしまう(15mを越える津波は想定外になる)。
その結果日本ほど危機対応がつたない国はなく、危機が発生するとそれぞれの部署の責任者や担当者ががんばって危機の拡大を防いでいるのが実態で、普段何も考えてもいない官邸対策室が適切な指導ができるはずはなく、ヒステリーを起こすという状況になってしまっている。
なお原発事故関連の記事は以下に纏めてあります。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat43519325/index.html
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat43890139/index.html
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