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(23.11.5) 先進国経済の停滞と成長エンジンの喪失 日本とEUの事例

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 初めて成長の限界を世界に訴えたのは1972年ローマクラブで、そのときの論旨は「人口は幾何級数的に増加するが食料は算術計算的にしか増加しない」と言うものだった。
いわば食糧問題がネックとなって成長が止まるという理論で、マルサスの人口論を基礎にしている。

 しかし今目の前に現れている日本とEUの成長の限界は食料問題ではなく、成長エンジンの喪失である。
日本が1990年ごろからまったく成長できない経済になったのは、2つの成長エンジンが止まったからだが、最初に止まったのは土建国家日本だった。

 日本は何度も景気対策として公共事業の拡大を行ったが、作られたもののほとんどが経済効果を無視した箱物ばかりで、不要な自動車道路やダムや港湾や飛行場や公民館ばかりだった。
こうした施設は日本経済の拡張になんら役立たず、そのため税収が伸びることがなかったので、日本経済は更なる箱物を作るため、不足分を国債発行でまかなわざる得なくなってしまった。
そして国債発行も限界が来たところで土建国家日本はこの成長エンジンを止めたのだ

 もう一つの成長エンジンは輸出産業だったが、このエンジンをふかすために日本政府が採ってきた方策は超低金利政策だった。これにより円は対ドル対比120円程度で推移していたので、トヨタをはじめとする輸出産業は利益拡大することができ、リーマンショックまでは日本は実質GDPで成長をしていた(名目GDPはほぼ一定)。

 しかしこの成長エンジンもリーマンショック後アメリカEUが日本と同様の超低金利政策をとったことで瞬く間に円高になって、この円高に耐えられず日本から輸出産業が消えつつある。
日本は土建国家輸出産業以外の成長エンジンを持たないため、1990年を境に長期低迷に陥り、世界の経済成長から取り残されてきた。

 そして今EUがその成長エンジンを失って長期低迷に突入しようとしている。
EUの成長エンジンはまさにそのEUの拡大であり、ヨーロッパにアメリカ並みの国内市場が出現し、人と物が自由に移動できるようにしたことにある。
しかもEUのうちの17カ国ユーロと言う共通通貨を持っていて、ギリシャ危機が発生するまでは実に効果的な成長エンジンになっていた。

 ドイツは広がった市場に資本を投下し、また地域内の相対的に貧しい国々に物を売ることで莫大な貿易収支を稼いできた。
そしてその貧しい国がなぜドイツ製品を湯水のように買えたかと言うと、ユーロ圏の一員として国債発行を低利でしかも無制限に行えたからである。
これは金融政策ECB(欧州中央銀行)が統一的に行ったが、財政政策は各国に任せたため国債発行に歯止めがかからず財政規律が無視されたためである。

 ギリシャでは国債発行で得た資金を使って公務員を増員し、給与を上げ、また年金支給者の待遇を改善してきた。そして程度の差はあってもイタリアもスペインも国民がドイツやフランス並みの生活をするために国債発行で得た資金を大盤振る舞いしてきた。
相対的に貧しかった南欧諸国は借金生活をすることで確かに生活は豊かになったといえる。

 しかしこの成長エンジンもリーマンショック後の厳しい経済情勢の中でギリシャ問題が発生してからすっかり逆噴射になってきた。
あまりの放漫財政に驚いたドイツやベルギーやオランダがギリシャやイタリアやスペインに緊縮財政を要請したからだ。

 ギリシャにとって緊縮財政とは国債発行を縮小し(実際は市場で買い手がない)、その結果公務員の首切りや給与の引下げ、公共料金の値上げと年金の引下げとして現れてきた。
すっかりギリシャ市場は冷え込んでドイツの輸出品も売れなくなってきた。

 EUは成長エンジンが冷え込んだのだ。
ギリシャやイタリアやスペインが国債発行をして国民に大盤振る舞いしない限り、ドイツやフランスの製品はこうした国々に売れない。
ところが今こうした国々が国債発行が不可能になり、自身で資金調達ができないためドイツやフランスは融資までしなければならなくなってきた。
もはや成長を云々する段階でなく、放漫財政国家をいかにして救ったらよいかと言う段階になっている。

 それぞれ国や地域にはその場所特有の成長エンジンがある。そのエンジンが崩壊したら新たな成長エンジンが出てこない限り成長はできない。
日本とEUはこうして長期低迷の時代に突入してしまった。

注)日本は土建業と輸出産業以外の新たな産業創出に成功したら再び成長路線に戻れるし、EUはフレームワークの再構築が成功し、財政政策を一本化できたら成長路線に戻れる。しかし両者ともとてもそれが可能とは思われないので、日本とEUの経済成長は終わったと私は思っている。

なお本件と関連する記事は以下の通り。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat45746513/index.html

 

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評論 世界経済 経済成長」カテゴリの記事

コメント

経済の歴史をたどっていくと、急速に発達した近代経済システムの成長エンジンは、銀行に信用創造というバブルの種の根源となる権限を与えたことではないでしょうか。

銀行が誰かの預金から、何倍もの融資資金を生み出すことができますが、だからこそ、経済の好況・不況の振幅が大きくなってしまうのです。

ニーズやウォンツという人々の欲求は、満たされれば、それ以上に増えることがありません。

無から金を生み出して、その金を貸して利息を得ることができるシステムがなければ、金融危機など無縁だったと思うのです。

Wikipediaの信用創造のページ最後にリンクが貼ってある、Money as debtという動画を見てみてください。
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%A1%E7%94%A8%E5%89%B5%E9%80%A0

投稿: ふくだ | 2011年11月 5日 (土) 18時30分

ネットでいろいろなブログを読んでいますと、解りやすく日本の経済を解説してあるブログがよくありますが、それには共通点があります。まず、経済の素人が経済学の本を読んで現在の日本のそして世界の経済を考えているブログです。これが一番解りやすいです。というのは、かれらの使う経済用語は経済学の教科書に出てくる用語と同じなので、こちらも経済学の教科書を片手に読むとよくわかるのです。すなわち素人であるが故に経済学的思考に忠実に経済を分析していると言えると思います。この考え方から行くと「成長エンジン」という考え方は、理解しにくい用語です。不況の経済学といえば、ケインズを思い浮かべますが、ケインズは「成長エンジン」など議論していないはずです。それは意味がないからです。「成長エンジン」とは、後付けの考え方なのです。後から考えて、そう言えばあれが成長エンジンだね、という具合です。通産省は最後まで自動車産業を日本の基幹産業とは認めませんでした。すなわち、「成長エンジン」云々とは、現在日本は不況であるということ、そしてデフレにあると言うこと以外に何ら情報を付け加えるものではないような気がします。

投稿: 縄文人 | 2011年11月 6日 (日) 22時34分

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