(23.11.10) 安愚楽牧場(あぐらぼくじょう)は何時からマルチ商法になったのか
私は畜産業界に関する知識が乏しかったので、この8月9日に安愚楽牧場(あぐらぼくじょう)が民事再生法を申請して倒産したという意味を理解できなかった。
そもそも安愚楽牧場なる物をまったく知らなかったからである。
最近クローズアップ現代でこの安愚楽牧場の倒産の背景を取り上げておりそれを見ることで初めて日本の畜産業の現実を知った。
安愚楽牧場が設立されたのは1981年だから今から30年前になる。
黒毛和牛と言う高級和牛の飼育を行うことを目的に設立された会社で、倒産時日本の黒毛和牛の約20%に当たる15万頭の牛の飼育をしていた。
日本の畜産業界では屈指の大規模経営であり、日本畜産業界のガリバー的存在だったといえる。
安愚楽牧場がなぜこれほどまでに規模拡大できたかと言うと、オーナー制度と言う特殊なビジネスモデルを開発したからで、全国から出資者を募り配当を約束することによって多くのオーナーから資金を集めていた。
倒産時負債総額が4300億円、出資者の数は7万4千人と言うから半端な数ではない。
当初私は「これはマルチ商法ではないか?」と思ったが、発足当初はかなり真面目な経営をしていたようだ。
100万円出資をして毎年3万円の配当があったというが、年3%は高配当とはとてもいえない。
バブル崩壊までは日本の定期預金でも5%前後はしていたのだから、これはむしろ低配当の部類に入る。
このかなり堅実だった安愚楽牧場のビジネスモデルに問題が発生し始めたのは1991年の牛肉の自由化だったそうだ。
それまで高価格で販売できていた黒毛和牛の肉が外国産牛肉の輸入によって高価格が維持できなくなった頃から経営にかげりが出てきた。
しかし本当の意味で安愚楽牧場に経営危機が襲いだしたのは、2001年のBSEの発生だったそうだ(と内部の情報を知っていた人が匿名で証言していた)。
BSE問題の発生で牛肉価格が大幅に下がってしまい、安愚楽牧場のビジネスモデルは完全にいき詰まり、その後は新たな出資者の資金を利息配当に回すというマルチ商法になってしまったという。
その後も畜産業を取り巻く状況は好転せず、宮崎県で口蹄疫が発生したり原発事故による風評被害等があって、マルチ商法までもが完全に行き詰ったのが11年8月だった。
注)宮崎県の口蹄疫発生の一番目の農場は安愚楽牧場だったが、安愚楽牧場はこの事実を隠蔽したため宮崎県下で甚大な被害が発生することになった。
ここ数年安愚楽牧場が高配当をうたって資金を集めたのは事実で(48万円出資をすれば半年後に52万円になり、これは年率8%の高配当になる)、マルチ商法が行き詰まる直前に高配当で資金を集めるのは常套手段だ。
投資者としては高配当は当然高リスクと言うことで注意しなければいけなかったのだから、こうした商品の購入には注意深くならなければいけない。
注)投資はリスク込みだから、そのリスクが表面化したとしてもいたし方ない面がある。投資は儲かっても損をしても自己責任だと私は思っているので、投資者が収益を上げたからと言って羨むことはしないし、また損失が発生したからといっても同情しない。
私は今回の倒産で被害にあっているのは出資者だけかと思っていたら、畜産農家約350軒あまりが倒産の危機に遭遇しているのだという。
日本の畜産業界は1991年の牛肉の自由化措置によって小規模農家の経営が破綻して多くの借金を農協に抱えていた。
当時安愚楽牧場は日本有数の優良牧場とみなされており、農協は自ら貸した資金の回収のためにも、倒産農家を安愚楽牧場に紹介し、そこの預託経営農家として畜産業を継続するようにとり図ったという。
農協は資金回収のため、畜産農家は預託料で生活するため、そして安愚楽牧場は規模拡大のために預託システムが必要だった。
この預託システムで育てられている牛は15万頭の約半分で北海道や宮崎等の畜産農家350軒が参加していた。
こうした農家は牛肉の自由化で一旦倒産したのだが、安愚楽牧場のマルチ商法に助けられてここまで生き延びることができたといえる。
そしてそのビジネスモデルが虚構であったため今2度目の倒産をしようとしている。
はたして日本で畜産業は生き残ることができるのだろうか。大規模経営はマルチ化し、そして小規模な農家は実質的に倒産している。
今回の安愚楽牧場の倒産と預託農家の実情を見せられると、生き残りは不可能ではないかと思ってしまった。
なお、過去のマルチ商法の記事は以下にまとめてあります。
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/cat40090319/index.html
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