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(23.10.19) TPP再録 韓国とアメリカのFTA締結と日本の立場 T.Yさんへの回答

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 先日「韓国とアメリカのFTA経済協力の締結 決断力で差がひらく日本と韓国」(リンクが張ってあります)と言う記事を掲載したところ読者のT.Yさんから以下のような質問を受けた。コメントで回答するには不十分と思われたので別途記事を作成して回答することにした。


いつも楽しみにブログを拝見させていただいています。

TPPについては反対派の中野剛志氏の主張が非常に的を射ているように感じています。
http://www.youtube.com/watch?v=nRmNJpUj5sI
TPPには下記のような問題があると認識しているのですが、管理人さまはどのような見解をお持ちでしょうか?

・歴史的な円高の局面で関税がなくなったからといって輸出が劇的に伸びるとは考えずらい
・TPPの対象項目は24項目あり単純に農業VS工業の利害関係だけでは語れない(投資や人材、保険といった分野の規制緩和も含まれる)
・そもそもアメリカ以外とはFTAとEPAをむすんでおり、TPPに参加したからといって国を開くという意味あいは持たない。


 なお、Wikipediaで検索すると中野剛志氏の主張は以下のようにまとめられていた。

TPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)参加は日本の国益にならないとする立場。
国内市場の大きい大国である米国だけが主導権をもってルールの策定を行えることに加えて、安全保障上の問題から日本は米国に対して弱い立場にあるため日本に有利なルール策定はより困難で米国に妥協するしかないこと、その米国がドル安により輸出振興政策を志向すればTPPに参加しても日本の輸出は伸びない一方で関税という防波堤を失えば日本の農業は壊滅的な打撃を受けること、などを理由として挙げている。

また、安い外国の製品が輸入されるようになったことをデフレの要因として挙げ、TPPに反対する最大の理由は、価格の低い商品がいま以上に輸入されてデフレがさらに進んでしまうからだとしている。

以下回答

・歴史的な円高の局面で関税がなくなったからといって輸出が劇的に伸びるとは考えずらい

(回答)リーマンショック前の120円水準に比較すると現在の76円前後の値は、35%前後の円高になっています。またドルにペッグしているその他の通貨(韓国ウォン、中国人民元等)も日本円に対しドルと同じ円高になりました。
このため日本輸出産業は崩壊過程に入り、日本での生産を諦めて海外に進出しています。
なお円高になったのはアメリカとEUが日本と同様の金融緩和策をとって日本の低金利の優位性が失われたため)

 今回のタイの水害では約400社あまりの日本の企業が被害にあっていますがそのほとんどが日本を代表する大企業であることに驚かされます。
かつて日本の貿易収支は毎月1兆円規模の黒字でしたが、東日本大震災以降様変わりになり、基本は貿易収支は赤字になっています。

 多くの経済界の予想は9月以降は再び黒字体質になり、貿易収支が回復するとの予測を立てていますが、私は懐疑的です。
この東日本大震災を契機に多くの輸出産業が日本から逃げ出したと言うのが実態で、日本が輸出立国であった時代は失われました(したがってこれからは貿易収支はトントンと言う時代が続きそうです)。

 したがって中野剛志氏が言う「関税がなくなったかといって輸出が劇的に伸びるわけではない」と言う主張は正しいのですが、関税の引下げがなければ一方でまだ日本に残ろうと懸命にがんばっている企業(トヨタは日本での自動車生産300万台死守と言っています)は韓国との競争に負けるので日本から出ざる得なくなるのも事実です。

 現状は何とか輸出産業を日本に残し職場を確保するか、それとも日本は完全に輸出産業を海外に追いやり失業者を増やすかの選択を迫られていると言うのが私の認識です。

TPP参加の目的は輸出を増やすのではなく、輸出産業に日本にとどまってもらうための方策


・TPPの対象項目は24項目あり単純に農業VS工業の利害関係だけでは語れない(投資や人材、保険といった分野の規制緩和も含まれる)

 
最も大きな問題は農業問題ですが、それと共に大きな問題は金融問題です。日本市場はとても閉鎖的で財務省と日銀が金融機関をがんじがらめにして、郵政をはじめとする金融機関を日本国債の調達機関にしています。
日本の財政赤字がギリシャより悪いにも関わらず、国債問題が発生しないのはこの調達システムが機能しているからで、もしこのシステムが崩壊すれば日本はハイパーインフレーションに襲われます。

 外国の金融機関に対しても監視が強く、もし財務省・日銀の方針に逆らうような動きをすれば金融検査の網にかけて業務ができないようにするのが常套手段になっています(クレディ・スイスが引っかかりました)。
したがって表面的には自由化をしているそぶりを見せて、行政指導と金融検査で手足を縛っているのが実態ですのでアメリカは金融の透明度を高めたいと望んでいるわけです。

 なお日本の金融機関の生産性は国債調達機関のため極端に低く(
1%利ざや程)、アメリカの金融機関やヘッジファンドが10%から20%の利ざやを稼いでいるのに比べ斜陽産業になっています(したがってウォール街で発生しているような1%が99%を犠牲にしていると言うことはありません)。

 金融機関の生産性は自由化が進めば通常は向上するのですが、日本の場合は国債の償還ができなくなって国家破産の危機に陥ることが予測されます。
私の意見はあまりに政府・日銀の統制が厳しすぎ、本来高収益企業になれる金融業を押しつぶしてしまい、次世代産業が育っていない(
したがって相変わらず工業に頼らざる得ない)ため、このままでは日本は衰亡すると思っています。

日本の金融機関の低生産性にショックを与えるためにTPPに参加し金融の一層の自由化は効果がある。ただし急激にしすぎると国家破産を招く


・そもそもアメリカ以外とはFTAとEPAをむすんでおり、TPPに参加したからといって国を開くという意味あいは持たない。

日本はシンガポール・メキシコタイ・マレーシア等(いづれも日本と比較して経済規模が相当程度小さな国)とFTAを締結していますが、大市場のアメリカやEUとは結んでいません。ここも韓国との競争が問題になり、韓国がアメリカ・EUとFTAを締結しているため、韓国製品と競合する日本製品自動車・家電・IT関連部品等)が競争に負けることを危惧しています。

日本の残っている輸出産業の悲願はせめて韓国と同じ土俵の上で勝負したいと言うことで、ウォン安で追い上げられ、さらに関税撤廃で追いやられると日本輸出産業は完全に失速すると言う危惧の念から出ています。

日本の輸出産業の悲願はアメリカとEUでせめて韓国と同じ土俵で勝負したいと言うこと


 なおT,Yさんとは別に縄文人さんから以下の意見が寄せられましたので回答をしておきます

・日本は内需経済の国です。輸出は必ずしも必要ではありません。経団連は韓国のように輸出産業だけうるおい、他の国民を犠牲にしようとしているとしか思えません。

 日本の内需が約60%で韓国や中国に比較して外需依存度が低いのは確かです。
しかしそのことが輸出産業を否定する理由にはなりません。
当然のことですが石油LNG等の燃料や多くの食料を輸入しているからですが、ポイントはその支払がドルで行われているからです。

 もし日本の円がアメリカの基軸通貨ドルのようでしたら支払は円で支払えばよく、足らなければアメリカがそうしているように紙幣を印刷すれば事足ります(
基軸通貨と言うことは自由にその金を印刷できる権限を持っているということ)。
しかし円はそうした通貨でないため輸入のためにどうしてもドルが必要なのです。
戦後日本が出血輸出をしてまでドル確保に血眼になっていたのは、円は国内以外では単なる紙切れだったからでした。

 輸出をするとは本質的に輸入が必要だからで、もし石油もLNGも石炭も小麦も輸入しないとすれば国内産業だけでやっていけますが(これを鎖国体制といいます)輸入がある限り輸出が必要との原則は崩れません。

注)ただし過去の貯金で外貨がある間は輸入ができますが限界があります。

国内市場が大きくても輸入がある以上基軸通貨国以外は輸出(あるいは出稼ぎ送金や海外からの借入)により外貨を獲得せざる得ない。日本で輸出産業が命になるのはそのため


 くどいようですが私がTPP参画に賛成するのは、そうしなければ韓国との競争に負け日本から輸出産業が消え去り、輸入を行うための外貨獲得ができなくなるからで、何か有利な立場での選択をするというよりも土俵際に追いつめられての選択(選べるような立場にない)だという認識にあるからです。

 

 

 

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コメント

非常にわかりやすい内容でした、ご回答ありがとう御座います。
周りにTPPに賛成の方が中々見つからなかったので大変参考になりました。
ただ、TPPのメリットを確認したあともデメリット(デフレの加速、労働力流入の雇用悪化)の方が大きいように感じてしまいます。
以下に管理人さんの意見への感想を書かせて頂きます。

>>TPP参加の目的は輸出を増やすのではなく、輸出産業に日本にとどまってもらうための方策

関税撤廃よりも為替対策を行えばいいのでは?(スイスのようにドルペッグを示唆するなど)
韓国とEU、USとのFTAの内容を見るかぎり平成の不平等条約のように見えてしまうのは私の色眼鏡を通して見てしまっているせいでしょうか?

>>日本の金融機関の低生産性にショックを与えるためにTPPに参加し金融の一層の自由化は効果がある。ただし急激にしすぎると国家破産を招く

メリット、デメリットの兼ね合いから非常に判断が難しいと思います。
ただ金融を開放すると間違いなく外資は郵政株を狙ってくるでしょうから、個人的には郵政事業を官に戻してから金融の自由化はすすめるべきだと考えています。

>>日本の輸出産業の悲願はアメリカとEUでせめて韓国と同じ土俵で勝負したいと言うこと

韓国の輸出拡大の主要因は通貨安であり、関税の条件を同じにしたところで焼け石に水では?(短期間に通貨の価値が半分にされたら他国の企業が勝てるはずがない)
また通貨安のため韓国経済は現在スタグフレーションに陥っており、今にも亡国になりそうな国と同じ土俵には個人的に立ってもらいたくはない。

>>国内市場が大きくても輸入がある以上基軸通貨国以外は輸出(あるいは出稼ぎ送金や海外からの借入)により外貨を獲得せざる得ない。日本で輸出産業が命になるのはそのため

おっしゃる通りだと思います。ただ為替対策等のTPP以外の政策で輸出産業を支援して欲しいものです。

私のTPPに対する印象としては確かに輸出産業の支援にはなるが、今の日本の経済状況(デフレ、雇用悪化)には合わない政策であるというものです。


投稿: T.Y | 2011年10月20日 (木) 17時50分

T.Yさん >TPP以外の政策
まさに正鵠を射る一言です。

中野氏の映像ですが、文字起こしがありましたので紹介します。
http://www.twitlonger.com/show/dmbifh

投稿: 横田 | 2011年10月20日 (木) 23時31分

宋文洲さんは、TPP賛成でしたが、実情を知るにつれて慎重になるべき、と変わってきました。
http://togetter.com/li/210998
米国では自国民への利点を詳しく開示していますが、分析してみると交渉下手な日本には
非常に面倒な事になることが想像されます。
http://gigazine.net/news/20111104_tpp_mastermind/

石油などの燃料については、実は国内資源(石炭や海洋の海底資産など)が豊富です。
それをわざと自国内で採掘させないために仕組まれているとしたら、という見方も必要です。
もっと言えば、核燃料は、採掘地の住民を否応なしに被曝させているという指摘もあります。
燃料基調としての埋蔵量も、他の資源と比べると非常に少ないとされています。

投稿: 横田 | 2011年11月 8日 (火) 00時23分

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