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(23.9.22) 小栗康平監督作品 泥の川

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 NHKのBSシネマで放映されている山田洋次監督が選んだ「名作100本、家族編」で小栗康平監督の「泥の川」が放映された。
私はこの作品を昔見てひどく感動をしたのを覚えているが、なぜあれほど感動したかを忘れていた。
今回この作品を見直して、この映画の時代背景が私の少年期のそれであり、この映画に出てくる少年・少女はまごうことなき自分であることを発見した。
主人公の少年二人は小学校3年生の年齢であり、私も当時小学校3年生だった。

 舞台は昭和30年の大阪の安治川である。
この川のほとりのほとんど河川敷と思われる場所で、安食堂を経営する夫婦(晋平と貞子)の息子・信雄とその対岸に一時的に接岸して売春をしている舟(廓舟と言う)の姉弟(銀子と喜一)との淡い友情を描いている。

注)姉弟の父親は腕の良い船頭だったが事故で死亡し、母親が廓舟で売春をしながら子供を育てている。この廓舟は真ん中で区切られていて、一方に子供達の生活をする場所があり、他方が姉弟の母親が商売をする場所になっており、入り口も異なっている。

 食道の主人・晋平を演じたのは06年に亡くなられた田村 高廣さんで、その奥さん・貞子藤田弓子さんが演じていた。
夫婦は当初廓舟の姉弟と息子の信雄が友達になるのを躊躇する。
廓舟と言うことを知らない信雄が二人の姉弟を家に呼びたいといったとき、動揺して拒絶しようとした貞子を制して晋平が言う。
子供は親を選んで生まれてきたわけではない

 実際に現れた姉弟は、信じられないほど素直で、特に姉の銀子は悲しいほど礼儀正しい。
貞子はすっかりこの姉が好きになり、たまたま家にあった洋服を銀子に着せて与えようとするが、銀子は喜んで着たものの帰る時には綺麗にたたんで洋服を返してしまう。
人から物をもらうと言うような親切な扱いを受けたことがないからだろう)。

 この映画は少年二人(信雄と喜一)の友情を縦糸に、廓舟の娘と言う薄幸な少女銀子や戦争で心に傷を持つ安食堂の主人晋平、そして晋平の二番目の妻となった(先妻は京都の病院で病床生活をしている)働き者で心の優しい貞子が横糸を織り成している。

 姉弟は母親が売春婦であることを知っているが、それが生活をするための已む終えない生き方だと母親の生き方を責めない。そしてこの姉弟は学校にも行っていない(廓舟は転々と場所を移動するため学校を特定できない)。

 姉弟と信雄が友達になり、
姉の銀子はこの安食堂が忙しい時に手伝いをするようになった。銀子が手伝いをしながらこの安食堂の米びつに手を差し入れて言った言葉が心を打つ。
冬の寒い時でもなあ、お米だけは温いねん・・・
お米がいっぱい詰まっている米櫃に手ぇ入れて温もっているときが、一番幸せや・・・」

 昭和30年、まだ日本が貧しかったころお米があったかく感じていたことを思い出した。
当時私の家も極端に貧しく、米びつにはほとんど米がなかった。
ある時米が完全になくなり10円玉一つを持ってコッペパンを買いに行ったのを覚えている。
このコッペパンが私の兄弟3人の残された食事だった。
私がそれを平等に三等分したのだが妹が「兄ちゃん、こっちのほうが大きよ」と言っていた。

 夏祭りの夜少年二人は母親の貞子から50円ずつをもらって祭りにいくのだが、そのお金を祭りの最中に落としてしまう。落胆した二人は気を取り直すため廓舟に戻って(夜は廓舟に行ってはいけないと信雄は言われていた)、喜一が仕掛けた蟹とり罠から蟹を引上げ、蟹を油につけてマッチで火をつける遊びを信雄に教える。
信雄は蟹を火で殺すのに耐えられず蟹を助けようとして船から身体を乗り出し、たまたま隣の部屋をのぞくと、姉弟の母親(加賀まりこが演じていた)が男とセックスしているところを見てしまう。
信雄は動揺し家に帰ろうとして橋の途中で銀子とすれ違う。
信雄がいつもの仕種と違うのを見て銀子は自分達の悲しい生活を信雄が知ったことを悟る。

 姉弟の母親は信雄にその場面を見られたことから、この場所にいられないと判断し翌日には引き舟に引かれて川を遡っていく。舟が岸壁を離れたところを事情の知らない母親の貞子がみて、「挨拶もしないでなんで急に行ってしまうのだろうか」と不審に思う。
信雄は当初躊躇して動かなかったが、急に飛び起きてこの廓舟を追って岸壁をはしりながら「きっちゃん」と叫び続ける。何度も何度も「きっちゃん」と叫び続けながら舟を追うが廓舟からは何の返事がないところで映画は終わっていた。

 信雄が「きっちゃん」と叫び続ける場面は「シェーン」のラストシーンを髣髴とさせたが、この映画のトーンは「禁じられた遊び」に近い。
私はこの映画を見て泣いてしまった。止めどもなく涙が流れた。

 田村 高廣さんの演技は一世一代の名演技だ。
特に食堂にいた客の酒飲みが喜一をみて、「こいつは廓舟の子供じゃないか。客引きもしてると言うぞ」と言われた言葉に喜一がうなだれた時に、この酔客を追い出し、子供の気持ちを明るくするために手品を演じる場面は秀逸だ。
いつの間にか喜一は酔客から言われた言葉を忘れて手品に見入ってく。

 藤田弓子さんの演技も良い。この薄幸の少女に優しく接し一緒に風呂に入っているシーンがあった。銀子はほとんど笑わない少女なのだが、身体を洗ってもらいながら明るく笑っていた。
喜一が「あ、姉ちゃんが笑っている」と不思議そうにいう場面もいい。
藤田弓子さんは必ずしも美人女優ではなく、すでに身体の線が崩れていたがこの映画に出ている藤田さんはまばゆいほど美しかった。
美しさとは単に顔の造作だけではないことを私は藤田さんを見て知った。

 そして何よりも感動するのは姉の銀子の存在感だ。学校にも行かず(たぶん小学校5年生程度)母親の代わりに食事をつくり、そして悲しみをじっとこらえながら礼儀正しく生きていく少女の行く末を案じざる得なかった。
そして昭和30年代の貧しくとも懸命に生きなければならなかった日本を映像で残してくれた小栗康平監督に心から感謝しながらこの映画を見た。

注)なお「泥の川」の原作は宮本輝氏の小説で1978年の作。小説と映画では細部で相当内容が異なる。私の正直な印象は小栗康平氏の映画のほうがはるかに芸術性が高く、感動を与える。

 

 

 

 

  

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