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(23.7.29) 円高と日本の将来 価値観の転換が始まる 新しい中世の時代

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 今日本のおかれている状況は厳しい。ここにきて円高がますます進んで過去の最高値である76円に接近してきた。
原因はアメリカの債務上限引上げ問題の協議が難航しており、オバマ政権と共和党の綱引きが行われているからだ。
期限は8月2日でこれを過ぎるとアメリカ政府はデフォルト状態になり、公務員給与も公共工事の支払もできなくなってしまう。

 市場はいらだっており、資金はもっぱら金と通貨であれば円、スイスフラン、ニュージーランドドル等に向かっている。
円はもっぱら安全な資産として買われているのだが、一方日本の輸出産業はますます苦境に陥ってきた。

 特にトヨタのように日本で300万台の生産を死守すると公言している企業は経営基盤がますます脆弱になってきた。
多くの輸出産業はニッサンがそうであるように生産拠点を中国等に移しており、日本から離れている。

 日本に残るのは円高で莫大な利益が上げられる輸入産業と、日本人相手のスーパーやコンビニのような国内産業だけだ。
本来は金融業がこの円高を利用して世界の金融機関に飛躍しても良いのだが、実際は財務省・金融庁・日銀の鉄のトライアングルに首根っこを押さえられて、国債購入機関に成り下がっている。
そして一時期は飛ぶ鳥を落とす勢いだった消費者金融は、過払い利息問題が発生して息の根を止められた。
日本には次世代産業が育っていない。

 日本では江戸時代から生産者当時は農業生産者)が最も尊敬される職業で、一方金貸し業は胡散臭い職業とみなされ、つねに抑圧の対象になってきた。
江戸幕府は何回も借金を踏み倒したが、平成のこの時代になっても為政者の意識は変わらない。
輸出産業が日本の生命線で、金融業は暴利をむさぼるトンでもない企業だ。消費者金融はつぶしてもいいし、金融機関は政府の言うことを聞いて国債だけを購入していればいい
国債は返済が不可能な借り入れで、形を換えた運上金といえる。

注)およそ1000兆円に登る公的債務が返済されることはない。最後は踏み倒される。

 輸出産業が海外に進出し、新しい産業が育たなければ通常は失業率が大幅に上昇してくるのだが、現状ではまだその傾向は見られない。
高度成長期の2%台ははるか昔の話だが、その後の失われた20年でも5%前後で推移し、欧米各国の10%前後と比較するとまだ日本の失業率は低い。

 この原因は日本では経営者が従業員を相対的に大事にする気風があり倒産間際になるまで首切りを控えたり(JALの例)、正規社員を切りながら派遣労働者と言う相対的に給与が低い労働者で雇用を維持したりしているからだろう。
ただしこれは現役の労働者の場合で、新規労働者新大卒や新高卒)の就職環境は毎年のように悪化しているから、徐々に労働環境は悪化していくだろう。


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 私は前回「トヨタ自動車の最後のプレゼント 東北地方で小型HVの開発」と言う記事を書き、その中で「GDPの低下が個人生活に及ぼす影響は、無駄な消費をやめてできるだけ自分で家のメンテや菜園づくりをして楽しむことになる。金はないが時間が自由になるので、手間隙かけて遊ぶということが基本的な生き方になる」と記載した。

注)輸出産業が海外に出て行くと、GDPの構成要素である純輸出(輸出-輸入)がマイナスになってGDPは低下する

 これに対し読者のふくださんが、働く人が相対的に少なくなり、定年退職者や失業者ばかりになると「(そうした人が自由な時間を楽しむためには、生活資金が必要ですが多くの国民が失業してしまったら、国としてどのような補償をすべきか何かお考えでしょうか?」とコメントされてきた。

 これに対する正直な回答は「現在デフォルトをしているギリシャやポルトガルのようになると言うことだろう。
公務員給与の引下げ、年金の引下げ、公共工事の中止、医療費の削減等を実施せざるをえず、それでも効果がなければ公務員の首切りや年金の一時停止になる。
一言で言えば全員で苦悩を分かち合おうという政策で、生活レベルは当然低下する。

 私のような年金生活者は年金額が削減されるので、食事を切り詰めたり衣料品の購入を控えたりするが、実際は高齢者は食欲などなく、着飾って異性の注意を引く必要もない。おそらく生命保険を解約し、携帯電話の契約を解除し、あまり医者にかからないようにするだろうが、だからと言って特に問題はない。貧しさを受け入れればいいだけだ。

 若者は日本での就職活動が難しくなるのでファイトの有る若者は東南アジアや中国のような新興国に就職の場を求めて出て行くだろう。
失業者は失業保険が減額されるがその中で生活するより仕方がない。
国の補償能力が徐々に低下していくのだから、それにあわせて生活水準を引き下げることになる。
そして好むと好まざらると関わらず、年金生活者や失業者は自由な時間を享受することになるのだから、時間をたっぷり使って人生を楽しむことになる。

 その兆候はすでにあらわれており、昨日(27日)のクローズアップ現代で、サラリーマンの間で静かな数学ブームが起こっていると報じていた。数学などは最も金がかからず、そして十分時間を使って楽しめる頭の体操ですでにこうした動きが発生している。

 多くの人はこうした時代を不幸と感じるかもしれないが、それは違う。
確かにGDP優先の時代
20世紀の精神)では物が少なくなりGDPが低下することは不幸だが、価値観の大転換が行われ自由な時間が豊かになることを楽しむ時代になる
これを自由な時間の時代
21世紀の精神)という。

 人は家庭菜園や家を自分で作ることを楽しみと感じ、碁や将棋や数学の問題といった金はまったくかからないが頭を極度に使う遊びに興じるようになる。
食事は質素になり衣服についてもさして流行を追わず、旅行は自らの足か自転車を利用するようになり、現代人のように自動車を乗り回すこともない。

 かつて古代ローマと言うGDP優先社会が中世と言う貧しいが時間が豊かだった時代に変わったように、21世紀は新しい中世に突入するだろう。
人は今GDPと言う言葉がかつてあったことさえ忘れてしまう時代に移りつつある。

  

 

 

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評論 日本の政治・経済 将来像」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。最近読み始めました。いつも含蓄に富んだ内容で大変勉強になります。

私は、若いですが病気をしてしまって、障害者年金で暮らしているものです。
今は親元で暮らしてますし、年金は一般的な国民年金と同額なので、一人暮らししている同世代に比べれば貧しくはありません。
また、働いていないので、時間もあります。そして、健康回復のために治療を無料で受けさせてもらったので、お陰さまで今は仕事を探せるまでになりました。
日本社会は空白期間があまりに長いとどこも雇ってくれないという壁はありますが。

お書きになられたとおり、私は一歩先に新しい中世の生活をしています。
お金をかけず、有り余る時間で好きなことをしています。

しかし、そうなったとき、あることに気づいきました。
それは、人間にとって一番大切なのは、お金や好きなことをすることよりも、社会にとっての自分の存在価値ということです。
自分がいてもいなくても社会が困らないというのは、とんでもなく怖いことだと思いました。
家族や友人は困るでしょう。それが恵まれてないという訳ではありません。
しかし、そういう経済圏とは関係ない親密圏だけの承認では、人は存在の軽さに耐えられません。心の奥底から湧いてくる孤独と恐怖から逃れられないのです。
同じような状況で言えば引退した高齢者ですが、高齢者は昔、社会に貢献していたという実績が残っていますので、アイディンティティが崩壊することはないのかもしれません。
それでも、病院で知り合った、病気で一生のほとんどを過ごしたような高齢者は、とても大きな絶望と孤独を抱えて生きていると思いました。

これからの時代は日本はどんどん仕事がなくなっていくことは確実だと思います。
その時の救済策として、ベーシックインカムなどをするかと思います。でもきっとその後多くの人が絶望すると思います。人間も動物です。群れの中の立場がなくなれば、本能的な恐怖を感じるのです。死期を悟って群れから外れていく象と同じ気持、つまり自殺願望が湧いてきます。
ベーシックインカムで、いかに仕事をしないで生きて行くのに困らなくなったとしても、きっと結婚して子供を生もうという人は少数派になるはずです。
男に魅力がなくなるからです。男の魅力はなんだかんだで仕事してサバイバル出来る力があることを女の人は直感的に分かってます。仕事を持ってる一部の人に女性は集中するでしょう。すでにそういう傾向はありますが。
そして人は仕事をしないと成長できなくて、大人になるのは難しいです。今、オタク向けアニメがたくさんありますが、20年前と比べると、あの需要の多さは、もしかして働いてない大人が水面下で増えている証拠かもしれません。
私も長く働いてないで、同い年の人間と比べると縮めることの出来ない差を感じます。

長くなってすみません。何が言いたいかというと、新しい中世の「自由な時間を楽しむ」という概念において、この「人間にとっての仕事」という部分をどう捉えるのかということを知りたいのです。とても興味があります。それは今の私の求めている答えでもあります。

突然申し訳ありません。お体にお気をつけて。マラソンがんばって下さい!

(山崎)とても真面目なコメントをくださり感謝しております。最後の「人間にとっての仕事」と言う価値観の問題についてはとても内容が深いので、別途記載させてください。

投稿: 野衣 | 2011年7月29日 (金) 09時39分

ご意見ありがとうございました。

① 日本の場合、すぐにギリシャのように破綻するわけではなく、徐々に所得が減少していくでしょうから、時間的には策の打ちようがあると思いますが、何もできないとお考えでしょうか?

② それと、このまま輸出産業での競争力が低下し続け、どこまで所得が減少するのか、その金額が不明確だと、暮らしぶりの変化の予測はできないはずですが、どれくらい所得が減少するのか、予測されていますか?

③ あと、中国や東南アジアの所得は、まだまだ日本に比べて低いのですから、ファイトがあってもメリットが少ないなら、労働力の流出は考えにくいのでは、と。

(山崎)

① 基本的な発想の転換が求められており、輸出産業中心の経済成長はまったく望めません。政治家や経済人およびマスコミや研究者がそのことに気づいて、「円高だから大変だ」というキャンペーンから解放されない限り、対応策は出てきません。
円高だから有利だ(レーガンは「強いドルだからアメリカは成長する」と言っていました)との発想ができるまでは無理でしょう。

②についてはなんともいえません。日本よりアメリカや西欧の経済が悪化すれば、円高が進みますからドル表示では給与は高いともいえます。
定年退職者であれば年金で外国で十分生活できるレベルが想定されます。

③については職に溢れた若者は海外を目指すはずです。一般的に有名大学の若者は職を得ることは可能としても周辺の大学卒の場合は厳しいでしょう。そうした人たちは海外に出て行かざるえなくなります。

投稿: ふくだ | 2011年7月30日 (土) 13時35分

回答ありがとうございました。

それぞれについて、想定が異なるようで、議論をすると平行線をたどりそうなので、個々の意見は控えます。

輸出による成長の信奉が続くのは、新自由主義者の権力が落ちていないからか、と思い始めました。

世界の潮流としては、多くの人が社会民主主義を望んでいる、と感じています。

原発と同様、事故が発生してからじゃないと、皆、他人事になってしまうのかもしれませんね。

日本の場合、高齢者の人口比率が高いわけですが、その人たちが、この国の行く末に対し、他人事だと感じておられるなら、若年層は困ってしまいます。

年金生活者であっても、投票権がある以上は、行く末を憂いて、傍観するだけじゃなく、行動していただきたい、と願います。

投稿: ふくだ | 2011年7月30日 (土) 23時32分

ただ貧しくなるだけではつまらないものです。
せっかく自由な時間=オープンな意識を作り上げる時代なのですから最近話題の自然エネルギーの技術に投資するなり、農業文化の発達や日本のあり方を見直すなどの、違う方向での意識の前身の方にもエネルギーを向けて欲しいですね。
というより、衰退を許すな、ではなくは、ちょっとした変化をすぐ潰すような悪習を廃止した日本を実現してまったり生きようと、いう方向がいいのですが。

と言いましても、今は人類が残るかどうかの分岐点と言われる位の大激変ですからちょっとした話、では先を見通すのは難しいですね。いろんな人の世界予想図をまとめて行くくらいしかできません。

投稿: sage | 2011年7月31日 (日) 21時00分

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