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(23.6.9) スイス経済の強靭さはどこから来るのだろうか?

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 私がスイスに有る金融子会社の監査を行ったのは今から15年ほど前のことだ。日本の中小企業が盛んにスイスで社債の起債を行っていたので、そのために日本の金融機関もスイスに子会社を設立していた。

 しかし監査に行ってびっくりしてしまった。「スイス人の従業員に対する聞き取りは一切まかりならない」という。スイスでは守秘義務が硬く守られているため、もし従業員が監査人にそのような情報を提供したらスイスの法律で厳しく罰せられ、子会社も閉鎖されてしまうと言うのだ。

 仕方ないので日本人の派遣社員に別室で隠れるようにして聞き取りをしたが、その程度の作業は2日程度で終わってしまう。監査期間は1週間だったのであとはチューリヒ湖の沿岸をジョグしたり、市場を見学したりユング・フラウの高山電車に乗ってスイスアルプスを見て時間をつぶした。
個人的には楽しかったのだが、スイスと言う国の実態を垣間見る思いがした。

 スイスは世界でも屈指の豊かな国だ。一人当たりのGDPは2010年で75,835ドルというから日本の約1.7倍だ。
EUにも加盟せず、永世中立国というのでかつては日本人のあこがれの的だった。平和でのどかでエーデルワイスが咲き乱れる国と思っていたからだ。
しかし実際は常備軍が整備され、国民の男性はすべて予備役に編入されていて家には軍事訓練用の小銃や、将校クラスは自動小銃が配備されているのだから相当の軍事国家だ。
もちろん軍需産業も立派なものがあるので、日本の平和主義者の夢を壊してしまった。
攻めてきた敵があまりの損失で征服がいやになる程度の防衛力を整備する」のがスイスの国是である。

 防衛力も相当なものだが、スイスの本当の強さは「金融機関の秘密性」に基ずく経済力に有る。スイスにはクレディ・スイスとかUBSとかいった世界的な金融機関の他、プライベート・バンクという中小の個人レベルの金融機関が多く存在する。

 こうしたプライベート・バンクはかつては世界中の金持ちに隠し預金口座を提供していた。特にユダヤ人の金持ちが利用していたがナチス・ドイツの迫害で多くのユダヤ人が死亡したために、莫大な金額の預金がプライベートバンクの所有になった。
最も最近はバミューダ諸島、ケイマン諸島、ドバイと言った競争者が出てきたのと、EUやアメリカから厳しく情報開示を迫られているため、かつてのような一人勝ちと言うわけにはいかない。

 最近スイスはマネーロンダリングの温床という汚名返上のためベンアリ一族、ムバラク一族、カダフィ一族と言った独裁者の秘密口座で不当に利益を上げたものについてはスイス当局が資産を凍結すると法改正をした。
これでスイスも国際社会の立派な一員だ」と胸を張ったが、実際は凍結前に資金はスイスより安全な場所に移されている可能性が高い。
インターネットの時代は資金はたちどころに安全な場所に移動する。

 それに大手の金融機関はEUやアメリカと言った世界中で活動しなければならないので、当局に協力するがスイス国内だけのプライベートバンクは相変わらず守秘義務を楯に知らぬ顔のはんべいを決め込んでいる。
スイスは相変わらず「秘密こそが収益」の国なのだ。

 スイスはなぜ日本より裕福なのだろうかと思う。
表面的にはとてもよく日本と似ている。貿易収支は常に黒で世界的な製薬会社やネスレのような食品会社、それに高級時計は有名だ。
しかし経常収支が黒字の本当の原因は観光業(サービス収支)と金融業(所得収支)による儲けだ

注)貿易収支の黒字国は儲けた金を対外投資(資本収支)に向けるので、利息収入(所得収支)が増える。したがって貿易収支は黒字、所得収支は黒字、資本収支は赤字のパターンになる。この収支構造は日本とスイスは同じ。

 有余る資金を投資して稼ぎまくっているという状況で、スイスの所得の源泉は金融業だと言える。
クレディ・スイスUBSもリーマン・ショック時にサブプライムローン債権を多量に抱え込んだが、スイス政府の支援で乗り切り今はわが世の春を謳歌している。

 スイス当局は金融機関の支援は行ったが日本のような金融支配を志向しているわけではない。
日本の場合は金融庁や財務省が金融機関の手足を縛って、1%を少し上回るだけの国債を無理やり買わせて金融業を低収益産業にさせている。
その対極の立場にあるのがスイスだ。

注)日本は個人預金約1400兆円のうち、1000兆円を国債や地方債の購入に当てている。国債の鞘は1%程度だが、一方ヘッジファンド等の鞘は最低でも10%程度を目標にしている。

 スイスを見ているとなぜ日本がこれほど低収益国になったのかが分かる。同じ貿易黒字を稼ぎ出し、所得収支利子や配当金)も多く金融機関は多くの預金を集めているのに、一方は最も低収益の国債購入しかできず、一方は世界の投資銀行として高収益を稼ぎ出している。
貿易立国で稼ぎ出した資金は、次は金融立国として収益の源泉になるのだが、日本はそれに失敗し、スイスは成功していると言うことだろう。
おかげでリーマンショック後はスイス・フランは円に対して20%程度上昇している。

注)貿易黒字がたまると為替操作をしない限りその国の通貨は高くなる。そのため輸出産業の立地条件は悪化するが、一方通貨高になれば今まで溜め込んできた資金や海外からの預金で金融業が隆盛を極める。



なお、スイスにおけるプライベートバンクに関する記事は以下参照
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/23217-ba69.html

 

 

 

 

 

 

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