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(23.6.16) NHKクローズアップ現代 原発事故と日米同盟 日米の舞台裏

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 たぶんそんなことではなかろうかと想像していたことが、今回NHKの日米両政府の責任者に対するインタビューで明らかになった。

・なぜ日本の対応が遅れ、アメリカの日本に対する支援表明がすばやかったのか?
・なぜアメリカは日本政府が情報を隠蔽していると疑ったのか?
・アメリカ原子力規制委員会(NRC)と日本の専門家はどの様に意思決定をしたのか?

といった疑問に対する回答がこの番組で明らかになった。

 私は日本人だから菅総理枝野官房長官、そして福山官房副長官が当初何が起こったか分からず右往左往し、情報がない中での決断を先延ばしにしていた事情はよく分かる。
福島第一原発で何が起こっているんだ。東京電力からちゃんとした説明がなければ、判断できないではないか

 これは日本特有のボトムアップ型思考で、情報は現場から整理された形で上がってきて、それを政策担当者は検討・判断して指示を与えると言う方式である。
企業や役所はすべてこのように行動し、官邸といえども例外でない

 一方アメリカはまったく異なる。こちらはトップダウン方式で、問題が発生した場合はすぐさま最高の権力者である大統領が決断し指示する。
もっともこの段階では現場からの十分な情報がないため、「最悪を想定して対処する」という行動をとる。とりあえず最悪に備えればそれ以下の状態だったなら何とでも対応が取れるという判断だ。

 私はこのアメリカの「最悪を想定したリスク管理」と言うものを今回の原発事故まで、本当の意味では理解していなかった。トップダウンであろうがボトムアップであろうがさして変わりはなかろうと思っていたのだ。

 しかし今回の東日本大震災、わけても福島第一原発事故では、ボトムアップ方式トップダウン方式のあいだに際立った相違が出た。
3月11日、地震発生と原発事故が予想された段階で、即座にアメリカは日本に「あらゆる支援をする」と言ってきたのだ。

注)これはアメリカのリスク管理マニュアルに従った措置である。日本が大震災に見舞われた場合は在日米軍が直ち救出に向かう措置になっていた。

 一方日本では今だ大震災と原発事故の詳細が分からなかったため、情報が市町村や東京電力から上がってくるまでは判断を留保して時間をつぶしていた。
日本では下部組織からの情報が来るまではトップは何もしないで待つのが普通だからだ。

 これにアメリカはいらだった。
このような大災害が発生しているのに官邸は何も行動しないのか?」
アメリカ的なセンスでは最悪を想定したリスク管理マニュアルが整備され、詳細は不明でもすぐさま大統領は非常事態宣言を発して軍隊や警察、消防の動員に着手する。
だが、日本では東京電力の判断がない限り何もしない。

 3月12日、問題はさらに悪化し福島第一原発1号機で水素爆発が発生し、さらに14日、3号機でも水素爆発が発生した。
この段階でアメリカは切れてしまった。
トモダチ作戦として2万人の米兵を投入して支援しているのに、日本からはまともな情報が入ってこない。これではアメリカ兵の安全すら確保できないではないか。せっかく専門家のNRCのメンバーを派遣したのに、日米協議すら行われない。一体菅は何を考えているんだ

 3月14日現在の最大の日米間の確執はNRCのメンバーを官邸に入れるかどうかだったと言う。オバマ大統領の督励を受けたルース駐日大使は強く要望したが、福山官房副長官は断った。
日本政府の決断のプロセスにアメリカ人を入れるわけにいかない
実際は日本では東京電力からの報告が錯綜していて何がなんだか分からなかったため、アメリカの専門家と話をすることもできなかったと言うのが実態だ。

 そして3月15日、東京電力の担当者を福島原発から撤退させるとの情報がアメリカにもたらされてアメリカの怒りが頂点に達した。
原発を放って於いて日本人は逃げ出すのか、日本人は自己犠牲と言う精神がないのか、世界中に放射能を撒き散らすと言うのか・・・・・・

日本政府は自分では何も判断できず、東京電力の判断だけで動いているではないか、それが政治家のとる態度か・・・

注)この情報は正確ではなく、東京電力は必要最低限の担当者を残して他の職員を撤退させると言う措置だった。

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 この時ほど日本とアメリカの政策決定のプロセスの相違があらわになったことはない。
アメリカは最悪を想定して大統領が決断するのに対し、日本は下部組織(この場合は東京電力)からの正確な情報が上がってこない限り、総理が決断しないと言う違いである。
日本のようなプロセスをたどると、問題が収束する場合は大げさな対応をしないですんで国民に負担をかけないで済んだということになるが、一方事態が悪化すれば自衛隊等の逐次投入と言う第二次世界大戦での失敗と同様な結果に陥る。

 そして不幸なことに今回は情勢は刻一刻と悪化していったのだから、ボトムアップ方式は崩壊していたと言える。
その間アメリカの強い要請をいれ、3月17日からはNRCと防衛庁との間の協議が始まり、ついで3月22日には日米両組織の責任者(アメリカ:NRC、在日米軍、国防相、日本:官邸、自衛隊、東京電力)の実質的意思決定機関ができた。
危機管理のイロハを知らない日本に原発事故の収拾策を任せるわけに行かない」アメリカに押し切られた。

 しかしこの機関ができたことで、冷却水を海水から真水に変える対応や、アメリカのロボットによる原発内部の調査が始まり、その後の一連の原発事故対応はこの機関の決定によってなされるようになった。
こうしてなんとか前向きな対応ができるようになったので、3月11日から3月21日まで続いていたアメリカの対日不審は収まったという。
なんだ日本は情報を隠蔽しようとしたわけでなく、ただ何をして良いかわからずパニックになっていただけか・・・・・」ようやくアメリカも納得した。

 私は今回の原発事故の事例で、「最悪を想定して対応を図る」と言う意味を始めて理解した。問題が発生した段階では正確な情報など入手しようがないから、あらかじめ専門家によるリスク管理マニュアルを作っておいて、それに基づき行動すると言うことで、最大のメリットは行動と決断が早いと言うことだ。

 一方日本のように最悪を想定すること事態はばかられる社会では、事故前は「絶対事故は起こらない」と住民を説得し、事故が起こってからは正確な情報を入手するまで行動を起こさず、住民にいらない不信感を与えないことが最大の行動様式になる。
対応は遅く、それでも自然に問題が収束する場合はベストだが、反対になるとすべてが後手になる

 思えば日本の総理大臣はかわいそうだ。こうした緊急時でもボトムアップの情報がなければ何も決断できない。菅総理はアメリカからの要請もあって自衛隊による放水を17日に命じていたが、こうした措置を国会議員の一人が「ヒットラーのように独裁者だ」と述べていた。
ボトムアップの世界では総理が命令すると非難される。

注)阪神淡路大震災で村山総理は対応をすべて部下に任せていたが、こうしたなにもしない総理が高く評価される。

 緊急時は日本の政治でもトップダウンが必要であり菅総理は懸命にアメリカ型大統領の真似をしたが、永田町では「トップダウンの首相は首相として相応しくない。ヒットラーのようだ」と首をすげ替えようとしている。
ボトムアップの世界は危機には弱いが、しかし日本は再び1年限りの首相を選んでボトムアップの世界に浸ろうと大騒ぎをしている。

注)東日本大震災関連の記事は以下にまとめてあります。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/cat43206851/index.html

 

 

 

 

 

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コメント

興味深く読ませていただきました。
山崎様のブログはいつも勉強になります。
ありがとうございます。

菅総理については、エネルギーシフトに傾きはじめてから、
菅おろしが始まったとも聞きます。
菅さんにはまだ頑張っていただいて、自然エネルギーへの道筋をきちんと作って欲しいです。
以下の動画の証言、驚きました。貴重な証言だと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=UIIvLCCNa1E&feature=player_embedded
動画の文字おこし
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-460.html

(山崎)情報提供ありがとうございます。読んでみました。

投稿: 抹茶 | 2011年6月16日 (木) 16時59分

面白い視点で、なるほど!と思いました。

私の職場では、トップが具体的な指針を示さず、任せていると言いながら、問題が起こると激怒されます。
もっと提案してほしい、と言いながら、大抵の提案は却下されます。
ヒト・モノ・カネのリソースは増やしてくれないけど、仕事量は増えていきます。

結局、理想的なリーダーが不在だから、次のリーダーが育たないのでしょうか???
日本はアメリカに比べると、理想的なリーダー像についての研究が進んでいないような気がします。

リーダーへのインセンティブが低いから、リーダーになりたがらない、というのも現代日本の課題かもしれません…


投稿: 福田 | 2011年6月16日 (木) 19時14分

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