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(23.5.19) 「岳」 よくがんばったね

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 評判の映画「」を見てきた。北アルプスでテント生活している島崎三歩という山岳救助ボランティアを主人公にした映画だ。
この映画の原作はビックコミック・オリジナルに2003年から掲載されていて、私はオリジナルのファンだから毎回読んでいた。
原作者は石塚真一と言う漫画家だ。

 漫画が掲載された当初の印象は「絵は下手だがよく登山のことを知っている人だ」と言うものだった。
日本のコミックは手塚治虫氏石の森正太郎氏さいとうたかを氏と言った世界最高峰の漫画家によって支えられてきたのだが、そうした人の描く漫画に比較するとなんとも画が下手くそなのだ。

 しかしこれは石塚真一氏の経歴を見ると理由が良くわかる。氏は高校卒業後アメリカの大学に約5年間在学していたが 、その間ロッククライミングに明け暮れ、帰国後漫画家のトレーニングを始めたのが28歳の時だと言うから驚く。
しかも漫画の教習本を購入して独学で漫画家を目指したと言う。

 実は日本の漫画界においては石塚氏があらわれるまでは山岳物はほとんどがヒットしていなかった。
理由は登山家の漫画家がいなかったからである
それまで描かれていた登山漫画は他にモデルがいてその自叙伝等を読んだ漫画家が絵にしていた。

 日本漫画界において始めて登山漫画を書ける作者があらわれ意義は大きい。私のような登山好きの人間でも十分に耐えうる内容になっており、2008年には漫画大賞を受賞している。

 この映画は原作をかなり忠実に再現している。登場人物もその性格付けも原作の通りだ。やや椎名久美という女性隊員のウェイトが高くなっていて、映画ならではの色取りを添えているのが違いと言えば違いだ(映画では美しい女性は必須の要素だ)。

 この映画の山の画面が実に美しい。私は何回も穂高に登っているので景色については知悉していると思っていたが、空撮された映像には目を見張った。
穂高はヒマラヤやヨーロッパアルプスに比較すると決して高い山ではない。
せいぜい3000m前後の山並みが連なっているだけだが、空撮や望遠レンズを駆使した映像は今まで見たこともないような迫力があった。
いやー、日本の山もなかなかのものじゃないか

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 この映画のテーマは長野県警の山岳遭難救助隊とボランティアの島崎三歩が協力して穂高周辺で遭難した遭難者の救助に当たるという内容である。
三歩はいつも穂高に暮らしているので誰よりも先に遭難者を救出してしまう。

注)アメリカ映画だとボランティアの三歩と正式な山岳遭難救助隊の隊長との確執があるのだが、日本映画らしく三歩と隊長は高校の登山仲間で実に仲がいい。

 穂高は夏山でかつ登山ルートを通っているかぎりは決して危険な山ではない。
今では50歳台から60歳台の老人が好んで登る山になっている。
しかし冬場は様相が一転してよほどの熟練者でないと登山をするのは危険だ。この映画の救助場面もほとんどが冬場のシーンになっていて、荒れ狂う穂高山頂付近での遭難者の救助場面が良く撮れていた。

 ロッククライミングのシーンはCGコンピュータ・グラフィックス)を駆使していたがなかなかの迫力だった。何か滝谷屏風岩を本当に登っているように見えるのだからたいしたものだ。
日本のCG技術の水準の高さに驚く。

 一つだけ残念だったのは真冬の氷点下のシーンでクレパスの底に遭難者と救助隊員が落ちてしまったと言う場面があったが、息が白くならないのには笑ってしまった。
山岳映画の冬場のシーンでは今までの映画で息が白かったのを見たことがない。白い息を吐くというのはCGでも不可能なのだろうか。そこまでいけば臨場感満点なのだがと残念に思った。

 映画では島崎三歩の果敢な救助を縦糸に、新人隊員椎名久美と言う女性隊員が救助隊員として成長していく横糸で構成されている。
三歩と久美の恋愛物と言うよりは、久美が三歩を目指してがんばると言う構成だ。
三歩は常に明るくそして救助をした人に対して「よくがんばったね」と声をかける青年で、この「よくがんばったね」が交響曲のテーマのように随所に語られている。
そしてもう一つ「山で捨ててはならないものはゴミと命だ」と三歩は言う。

 正直言えば映画そのものはそれほど感動的とは言えないが(漫画で事前に筋を知っているせいかもしれない)、穂高の美しさと救助の困難さやロッククライミングの醍醐味は良く伝わってきた。

 見ても損はしない実に美しい映像の山岳映画だ。

なお過去の映画評論は以下の通り
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/cat36842745/index.html

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コメント

私も有楽町マリオンで、山岳映画「岳」を観てきました。
雄大なアルプス連山の美しいパノラマ映像と猛吹雪の白い地獄の映像はなかなか迫力があり見事でした。
「山に捨てちゃいけないものは?」「ゴミと○○」の謎かけが印象でした。

投稿: たそがれ清兵衛 | 2011年5月19日 (木) 16時52分

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