(23.5.20) 原子力発電の終焉とシェールガス革命
NHKのワールドWave トゥナイトの特集「シェールガス革命」を見て、日本の原子力発電の時代が完全に終わったと確信してしまった。
福島第一原発のあと浜岡原発が停止され、さらに他の停止中の原発は再開するに当たって周辺自治体の同意が得られそうもない。
「想定外を想定して対策を採れ」と言われてもとりようがないからだ。
日本における原発が次々に閉鎖されるとして果たして次のエネルギー資源はあるのかと思っていたら、信じられないようなエネルギー革命が進展していた。
「シェールガス革命」と言われるエネルギー革命がそれで、世界中に存在するシェール層と言う岩盤から天然ガスが産出できるのだという。
シェール層と言われても何のことかわからないが、地下1000m~3000m付近まで厚く堆積している泥岩層でその隙間に天然ガスが閉じ込められているのだと言う。
従来はこの層から天然ガスを取り出すことは資金的にも技術的にも難しかった。
しかしアメリカが技術開発に熱心に取り組んだ結果、水圧破水法と言う技術が開発されて天然ガスの取出しが可能になった。
注)水圧破水法はまず垂直にシェール層までパイプを打ち込み、シェール層に届いたら今度はパイプを水平方向に伸ばし、その先から水と化学物質を噴出して岩盤を粉砕し閉じ込められていた天然ガスを採掘する方法。
従来はパイプを水平方向に伸ばすことができなかった。
オバマ大統領は「今後100年間の天然ガス需要をまかなえる」と喜色満面で演説していたが、このシェールガスの埋蔵量は調査をするたびに急拡大している。
簡単に言えばシェール層があるところには天然ガスありと言う状況でアメリカ、カナダ、北ヨーロッパ、中国、ブラジル等今まで天然ガスの生産ができなかった地域でも埋蔵が確認されている。
注)日本にはシェール層と言う岩盤がないのでシェールガスの埋蔵は期待できない。
現在シェールガスを実際に採掘して商業生産に載せているのはアメリカだけだが、すでにアメリカ国内の天然ガスの20%がシェールガスで、今後この割合は45%程度まで拡大できると言う。
おかげでアメリカは09年にロシアを抜いて世界最大の天然ガス産出国になって、輸出まで始めてしまった。
この状況に驚いたのがロシアとカタールで、カタールはアメリカ向けに開発していたLNG(液化天然ガス)を仕方なく西欧向けに変更したが、このためこの地域で独占的地位を占めていたロシアの天然ガスが駆逐され始めた。
ロシアはあわてて天然ガスの輸出先を日本、韓国、中国と言ったアジアにシフトさせようとしているものの、中国はアメリカと共同で自国内でシェールガス生産に乗り出す可能性が高い。
「大変だ、このままでは天然ガスは世界中に溢れてしまう」従来の産出国であるロシアと中東が大騒ぎをしている。
おかげで天然ガスのスポット価格は劇的に下がり08年7月の14ドル(100万BTS)から最近は4ドル程度になってしまった。これは2000年以前の価格に近い。
注)スポット価格は下がったが長期契約の場合は8ドル程度。
思えばこのシェールガス革命は日本にとって信じられないようなベストタイミングで進展している。福島原発事故で日本の原子力発電は実質的に息の根を止められたが、代わりにこのシェールガスを使用した火力発電所の可能性が大きく開けてきたからだ。
シェールガスの開発が進めば進むほど、世界は天然ガスを基本エネルギーとして使用するようになり、石油と原子力に依存するエネルギー体系が崩れる。
なにしろ天然ガスは石炭に比べてCO2の排出量が2分の1程度のクリーンエネルギーと言われている。そして埋蔵量は無限大だ。
アメリカ、カナダ、中国、そしてロシアにいじめられぱなっしのポーランドがこのシェールガス開発に熱心になっている。技術はすべてアメリカのものだから、アメリカはこのシェールガス革命を先導することで落ち目の覇権を維持できる可能性がある。
「石油の時代が終わった、これからはシェールガスだ」という訳だ。
注)シェールガスが石油に完全に代替することはないが火力発電所の燃料としては代替できる。
日本も商社がカナダでシェールガス生産に乗り出そうとしており、シェールガスの未来は明るい。
問題は環境問題で採掘現場に近い地下水がメタンガス(天然ガスの主成分だが人体に対する影響はない)で汚染されると言う問題がある。シェール層から天然ガスが漏れ出すためらしい。
フランスはこの環境問題があるので原子力のほうがはるかに問題が少ないと言っているが、日本の例を見てもわかるように原発事故の方がはるかに問題だろう。
どうやら21世紀の主要なエネルギー資源はこのシェールガスになりそうだ。嬉しいことにシェールガスは世界中にほぼ無尽蔵にあるのだから、中東やロシアの資源外交に左右されず、かつ価格も低位安定になりそうだ。
日本は福島原発事故で原子力発電の息の根がほぼ止まったが、思わぬエネルギー革命の進展で電力供給のネックを回避する方法が見つかった。
注1)なお、シェールガス革命は10年、20年の歳月で起こる革命で1年、2年先の問題ではない。その間は徐々に原発が停止し、一方天然ガスを利用した火力発電所が徐々に増加していくと言う推移をたどる。
注2)シェールガスは原子力に代替できるが、だからと言って日本の経済がこれで上昇するとは思われない。原子力の穴埋めが漸くできると言ったレベルだろう。
なお、本件と関連した記事は以下の通り。
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/221022.html
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コメント
こんばんわ。
シェールガスで検索していたら貴ブログにたどり着きました。
露大統領の対日強硬姿勢の理由はシェールガス革命によるロシアのあせりでしょうね。
三菱重工の無公害石炭火力発電も原子力の代替発電として有望だと思います。
http://plaza.rakuten.co.jp/airinhoikuen/diary/201007280002/
(山崎)無公害石炭発電についての情報ありがとうございました。
投稿: 名無し | 2011年5月29日 (日) 03時37分
このまえのNHKのクローズアップ現代で、やっと事の重要さを認識しました。それでいろいろと調べていると、なにか日立金属の工具鋼が掘削用のドリルの材質に使われたこともブレークスルーの一助となったとか。これって役に立つ情報だと思いませんか?
投稿: 掘削工具屋 | 2013年1月27日 (日) 18時56分