« (23.5.9) 東日本大震災 原発行政の終焉と菅総理のヒステリー | トップページ | (23.5.11) 失敗記 銀行ATMの巻き »

(23.5.10) 文学入門 有吉佐和子 恍惚の人

2356_032
 
 今回の読書会のテーマ本は有吉佐和子氏の「恍惚の人」だった。
日本外史に記載されている三好長慶の言葉「老いて病み恍惚として人を知らず」から題名を取った有吉佐和子氏のこの小説はあまりにも有名だ。
この小説が出版されたのは1972年のことだから今からおよそ40年前にあたる。 

 私がサラリーマンを始めた頃で当時は高度成長真っ盛りの頃であり、人々は老人問題よりもGNPが世界第2位になったことに酔いしれていた。
今の中国と同じような浮かれていた時代であり、日本の老人問題などはるか彼方の将来の問題と思われていた頃である。

 そうした意味でこの小説は時代を数十年先行した小説ではあったが、当時の主流の論壇からは無視された。人間の内面の掘り下げが浅く表面的な事件だけを追っていると言う評価だった。

注)有吉佐和子氏は常にそうした浅い作家と酷評されていたため、論壇に対抗して読者が好む小説を意図的に製作している。「読者が自分を認めている」と言う立場が氏の支えだった。

 この小説の主人公は昭子と言う職業婦人でかつ家事を一手にこなし(夫は手伝わない)、さらに茂造という老人が今で言う認知症にかかってからこの老人の世話をほとんど一人でこなすと言う一人三役のスーパーウーマンである。

 しかも茂造は認知症が発病するまでは昭子を苛め抜いていたと言う設定になっている。そのような立場の昭子が已むを得ない事情とは言え茂造の世話をし続けることの心の葛藤が本来あっていいのだが、この小説では十分に記載されていない。

 このため人間の内面を鋭くえぐるのが小説だとの認識の論壇主流派からは無視された。
葛藤なくして人間そんなことができるはずがない」と言うことだが、しかしこれは過酷過ぎる批評だと私は思う。
認知症と言う当時はそれほど一般化しておらず、家庭内に押込められていた老人問題を40年前に取り上げ、今日の老人問題に警鐘を鳴らしたのだからたいしたものだ。

 なぜなら老人問題は人間の内面の葛藤問題ではなく、より社会的な問題でありいってみれば誰がどのように看病するのが社会的にみて妥当かの問題だからだ。
したがって有吉氏が痴呆症の症状をできるだけ具体的に、そして誇張してまでも書いた理由も分かる。
こうした老人が出てきたらどうするの???」氏は世に問うたのだ。

注)私には認知症の茂造がなべ一杯の煮物を一人で食べてしまうとか、大学受験の孫よりも早く走ってしまうなどと言うことは物理的に不可能で、誇張でおおげさと感じた。

2356_019

 この小説では昭子と言う主人公が最後まで一人で茂造の世話をする筋だてなので、現在から見ると無理が有る。
職業婦人で主婦で看護人と言う立場は到底取れないというのが現在の認識で、それゆえ老人介護保険制度による社会的なケアが整備されてきた。

 しかし当時の認識としては社会的なケアなどと言うものがないから、主婦である昭子が全面的に茂造の面倒を見ざるを得ないと言う筋立てになっており、それでも昭子は精神的にも肉体的にも崩壊しないのだからターミネーターみたいなものだ。

 実は私は有吉佐和子氏の小説を読んだのはこの「恍惚の人」が初めてだ。氏は他に「複合汚染」や「華岡青洲の妻」と言ったベストセラーを連発していたし、何度も映画化されていたのだからもっと早く氏の小説を読んでいてもよさそうなものだが初めてだった。

 「恍惚の人」を読んだ私の正直な印象は「なかなかのストーリーテーラーで何かサマーセット・モームのような印象だが、登場人物自体はちっとも魅力的でない」と言うものだった。
本来はこの昭子と言う女性に感情移入できてもよさそうだがそうはならなかったのは人物の描写に失敗していたからだろう。

 だがそれは仕方がないことだ。これは先駆的な社会派小説で、40年前に現在の老人問題をほぼ適格に予測している小説だ。それだけでこの小説は十分すぎる役割を果したと評価してよいのではないかと私は思っている。

 

なお、読書会の主催者 河村義人さんと今回の発表者 磯部紀代子さんのレポートは以下のURLをクリックしてください。私のレポートとはかなり違った評価になっています。
http://yamazakijirou1.cocolog-nifty.com/shiryou/2011/05/23511-f139.html

 

 

 

|

« (23.5.9) 東日本大震災 原発行政の終焉と菅総理のヒステリー | トップページ | (23.5.11) 失敗記 銀行ATMの巻き »

個人生活 文学入門」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« (23.5.9) 東日本大震災 原発行政の終焉と菅総理のヒステリー | トップページ | (23.5.11) 失敗記 銀行ATMの巻き »