(23.3.11) 欧州中央銀行(ECB)のインフレ退治は成功するか?
ECBのトリシェ総裁が「4月にも政策金利を0.25%利上げを行い、インフレ退治に乗り出す」とアナウンスしたため市場が色めき立っている。
「すわ、金融引締めか!!!!」
さっそくユーロは利上げ期待で買いが進み、1ユーロ115円のユーロ高になった。
トリシェ総裁が危機感を強めたのは、資源価格と食料品価格の高騰で、ユーロ圏全体でECBの物価上昇目安の2%を上回り、2月は2.4%になったことが原因だ。
「まずい、インフレが許容範囲を越えてきた。このまま放置すればどこまでインフレが高進するか分からない」
ヨーロッパはドイツを筆頭にインフレに対しては敏感だ。
インフレが高進して各国で物価上昇反対デモが頻発すると経済が急速に冷え込む。
だが今回のトリシェ総裁のインフレ対策は本気でインフレを押さえ込もうとする意欲にかけおり、単なるアナウンス効果を狙ったものにすぎない。
インフレを抑える手段としては① 政策金利の利上げと、② 資金供給量の圧縮があるが、後者については当面実施しないと明言しているからだ。
これではインフレ退治はとてもおぼつかない。
理由は現在の資源価格や食料品価格の上昇は実需が増加したり供給が減少したのが主要な要因ではないからだ。
たしかに中国等の新興国が需要増加に拍車をかけているが、それ以上に世界に有余っている資金が投機に動いているからである。
リーマンショック前に投機資金を提供していたのは日本だけだったが、今回は日本では日銀が0.1%の資金を35兆円、アメリカではFRBが1次・2次をあわせて180兆円規模、そして当のECBもギリシャ、アイルランド、、ポルトガル等の支援のためアメリカ並みの資金供給を行い、この資金が結果的に原油、金、鉄鉱石、小麦、大豆等に流れこんだ。少しでも逼迫感が出れば価格高騰は止まるところを知らない。
しかもここに来てリビア情勢が原油価格の一層の上昇をもたらして、先物価格が106ドルまで高騰し、ドイルのガソリン価格は10%以上も上昇した。
この物価上昇を止めるには垂れ流し状態の資金供給を停止するしかないが、もしそんなことをすればギリシャ、アイルランド、ポルトガルと言ったユーロの弱い輪が資金不足に陥って崩壊する。
仕方なしにトルシェ総裁は1%の政策金利を1.25%にしようとしたものの、物価上昇が2%を越え、さらに3%をうかがおうとしているときに、0.25%の利上げでは何の意味もない。
しかし西欧、アメリカ、日本のなかで西欧はインフレを恐れて政策変更をしようとしている。
11年はデフレからインフレに世界経済が大転換する年で、ECB、FRB、日銀が資金の垂れ流しをやめない限り、先進諸国も新興国も物価上昇に悩むだろう。
物価上昇が限界を超えれば世界経済の新興国がらみの急成長にもストップがかかるが、本当の意味でストップがかかるのはECB、日銀、FRBが金融緩和策を止めて資金を引き上げるときだ。
注)当面は原油、金、他の貴金属や穀物の価格上昇は続き、次のリーマン・ショックが発生するまでは狂乱物価となる可能性が高い。
注)新興国のうち中国はこの物価上昇に悩まされ始めている。公的発表では5%程度の上昇だが、実際はそれ以上で中国の下層階級の生活を直撃し始めた。
なお、本件と関連する記事は以下の通り
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/cat42159652/index.html
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